イスラム教徒の多いマレーシアで飲酒運転が急増
今月中にも厳罰化の法案を内閣に提案へ

  • 2020/6/21

マレーシアは人口の6割がイスラム教徒であり、「飲酒」のイメージが薄かもしれない。しかし、実際には多民族国家であるため、飲酒は可能であり、近年は飲酒運転による交通事故の多発が深刻な社会問題になりつつあるという。5月31日付のマレーシアの英字紙「ザ・スター」は、この問題を社説で取り上げている。

イスラム教徒が6割を占めるマレーシアで、近年、飲酒運転による死亡事故の急増が問題になっている (c) mali maeder / Pexels

続く死亡事故

 社説がこのタイミングで飲酒運転問題をとりあげたのには、理由がある。5月末、国内で立て続けに飲酒運転による死亡事故が発生したのだ。5月27日、42歳の運転手が飲酒運転して車道を逆走。別の車に衝突して、41歳の運転手を死亡させた。また、5月29日の早朝には、やはり飲酒運転していた22歳の男性が高速道路で事故を起こし、バイクのツーリング中だったライダー1人が死亡、1人が重傷を負った。少し前の5月3日には、44歳のビジネスマンが飲酒運転で警察官をはね、死亡させる事故も起きた。

 「酒を飲んで運転してはならない」。ごく当たり前のことをあえて社説で訴えなければならないほど、飲酒事故が増えつつあるのだろう。

 社説は、2012年にマレーシア交通安全調査機関(Miros)が実施した調査結果を引用し、飲酒運転をすると交通事故を起こす確率が13倍に跳ね上がると指摘している。実際、これまでに致命的な事故を起こした運転手の23.3%が飲酒していたというデータもあるという。

 また、マレーシア交通省によると、2012年から2018年の間に飲酒運転の犠牲になった人数は1114人に上るという。今日、若い世代で最も多い死因が、飲酒運転による事故だという。

取り締まり強化と教育の徹底を

 社説は、マレーシア政府が飲酒による交通事故の増加を深く憂慮していることを明らかにする。

 交通省によると、今月中にも現行の道路交通法に盛り込まれている飲酒運転に関する罰則強化を内閣に提案する予定だという。これに伴い、現在は裁判所の裁量にまかされている被疑者の実刑が義務化されて、より高い罰金が課されるほか、実刑期間についても具体的な提案が行われる見込みだ。

 加えて、飲酒運転による死亡事故については、刑法上、殺人または殺人未遂として捜査を行うことも検察側と検討を進めているという。

 こうした政府側の動きについて、社説は「だいぶ遅れている」と評した上で、「法律の執行や政策の策定だけで飲酒事故を減らすことはできない」と、指摘する。「交通大臣もスピーチした通り、飲酒運転による事故を減らすためには、法の執行だけでなく、最終的には教育や啓発の徹底が必要だ。飲酒運転をしないように啓発し、国民ひとりひとりが意識を変えることこそが政府を動かす力となり、悲劇を減らすことにつながる」

 日本でも、飲酒運転の厳罰化が実現したのは、1999年に東名高速道路で飲酒運転のトラックによる衝突事故が起き、3歳と1歳の幼い姉妹が死亡したという悲劇がきっかけの一つとなった。

 社説は、「飲酒運転を減らすための行動は単純明快だ。飲酒したら決してハンドルを握らないこと」と締めくくる。どこの国でも、何歳であっても、酒に酔っても安全な運転ができる人間はいない。もし、飲酒運転をしても事故を起こさなかった経験があったとしても、それは万が一の偶然でしかないことをしっかり肝に銘じる必要がある。

 

(原文:https://www.thestar.com.my/opinion/columnists/the-star-says/2020/05/31/tougher-action-against-drink-driving-long-overdue)

 

関連記事

ランキング

  1. (c) 米屋こうじ バングラデシュの首都ダッカ郊外の街で迷い込んだ市場の風景。明るいライトで照…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  ミャンマーで2021年2月にクーデターが発生して丸3年が経過しました。今も全土で数多くの戦闘が行わ…
  4.  2024年1月13日に行われた台湾総統選では、与党民進党の頼清徳候補(現副総統)が得票率40%で当…
  5.  台湾で2024年1月13日に総統選挙が行われ、親米派である蔡英文路線の継承を掲げる頼清徳氏(民進党…

ピックアップ記事

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  3.  フィリピン中部、ボホール島。自然豊かなリゾート地として注目を集めるこの島に、『バビタの家』という看…
ページ上部へ戻る