洪水対策の抜本的な見直しを
タイ東北部でも大洪水

  • 2019/10/19

 10月初め、台風19号が日本列島を襲い、多くの被害が出た。タイ東北部でも、8月末から続く大雨の影響で洪水が発生し、大規模な被害が出ている。10月13日付のタイの英字紙バンコクポストは、社説でこの問題を採り上げ、政府の対応の遅さを非難するとともに、洪水対策を抜本的に見直す必要がある、と訴えている。

洪水に見舞われたタイの農村部の様子(2019年9月3日撮影) (c) ロイター/アフロ

遅れを取る政府の被災者支援

 タイで8月下旬から続く雨のために洪水の被害が出ているのは、ウボンラチャタニ県、ヤソートン県など、東北部の4県だ。特に9月中旬には、洪水だけでなく土砂災害も起きており、地元紙によればウボンラチャタニ県だけで2万世帯以上が被災しているという。

 社説は、大雨からすでに2カ月近く経つというのに、洪水の被害が解消されず、被災者に十分な援助が行き届いていないことを強く批判する。「行政は、この洪水が2つの大型台風による雨によって起きたものであり、水が引くまでにもう1カ月かかると言う。まるで、メコン川沿いの地域だから仕方がない、と言う口ぶりだが、行政の対策や支援用品の準備が不十分であったのは明らかだ」。

 さらに、社説は、俳優のビン・バンルーリットが先月、政府に先駆けて現場に駆け付け、現金や援助物資を被災者に寄付したことを紹介し、「後塵を拝して恥をかいたプラユット首相は、今週に入ってようやく2万1,600人以上の被災者に支援することを<約束>した」と、報じる。「約束」を強調した書き方には、政府による支援がいまだに不十分であることに対する強烈な批判と皮肉が込められているようだ。

議論呼ぶパクムンダムの水門開放

 被災者への資金援助はもちろん必要だが、社説は、省庁の垣根を超えた横断的な洪水対策戦略を考えるべきだ、と政府に提言する。洪水が起きた後に被災地を救済するだけでなく、洪水をどのように防ぐか、あるいは洪水が発生した際にどれだけ迅速に対応して被害の拡大を防ぐか、という視点を持つことが必要だというのだ。

 タイの行政の中で、水利管理と洪水対策にかかわる部署は25以上あり、関連する法律も30以上ある。今回の大洪水はこれらの関係部署すべてに教訓を与えることになるだろう、と、社説は指摘する。

 「すべての部署は、自分たちの業務に問題がなかったか、客観的に見直さなければならない。たとえば、ダム管理の方法は適切だっただろうか。地元の学者や運動家たちがパクムンダムの水門をすみやかに開くべきだと主張したのは、洪水の被害が拡大し始めてからだった。水門が開いたのは9月第一週だったが、それは遅過ぎたのではないか、という声がある。今回の洪水を機に、パクムンダムの水門を永久に開放すべきだと求める運動家たちの声が大きくなるかもしれない。真剣に検討する時が来たと言えよう」

 パクムンダムは、メコン川支流のムン川に世界銀行の支援で1994年に建設された。当時、ダム開発は漁業に深刻な悪影響を与えるとして、大規模な反対運動が起きたにも関わらず、政府は四半世紀にわたって聞く耳を持たなかった。「今こそ、謙虚に彼らの声に耳を傾けるべきではないか」と、社説は指摘する。「行政は、地元の研究者たちの意見を仰ぎ、長期的な洪水対策を立て直すために、一から考え直すべきだ。もう二度とこうした災害を起こさないために、できることはすべて取り組まなければならない」

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1770789/flood-response-needs-overhaulhttps://bangkokpost.pressreader.com/)

 

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