コロナ禍で子どもたちの学びを止めないために
長期の学校閉鎖に警鐘を鳴らすマレーシアの社説
- 2021/5/9
新型コロナのパンデミックにより、多くの国で学校教育が影響を受けた。長期にわたってリモート授業を余儀なくされた国も多い。マレーシアの英字紙ザ・スターは、4月25日付の社説でこの問題を採り上げた。
失われた世代
今回の新型コロナ感染爆発で、最も深刻な被害を受けた分野の一つは教育ではないだろうか。どの国でも感染拡大を防ぐために真っ先に学校が閉鎖となり、子どもたちはリモート授業を受けざるを得なくなった。しかし、そこにはデジタル化にはほど遠い教育現場の現状や、恵まれない子どもたちがオンラインにアクセスできない「デジタル格差」の問題などがあり、子どもたちの学びを止めないことの難しさが浮き彫りになった。
しかし、感染が完全に抑制されないうちに学校を再開することに対しては、どの国でも賛否両論があるようだ。社説は、マレーシアの教育現場における戸惑いについてこう書いた。
「教育機関で新型コロナの感染が増えるにつれ、保護者たちの思いは複雑になる。一方、学校を運営する側も子どもたちや教員の安全を確保するという重圧を抱えて厳しい判断を迫られている。彼らは、日々、心配した保護者たちから、ソーシャルメディアで広がった噂の真相や、学校の様子について尋ねる電話に対応している。保護者の中には、子どもたちに対面授業をさせたがらず、リモート授業に戻すよう求める人もいるようだ」
そのうえで社説は、「しかし、学校を一斉休校にすることが適切な答えというわけではない」と、断言する。
「子どもたちがあまりにも長い間、対面授業から離れていると、国連児童基金(UNICEF)が言うところの“失われた世代”になってしまう恐れがあるからだ。教育の専門家たちによると、あまりに長く学校を閉鎖し、子どもたちを遠ざけていると、子どもの知的育成や社会的人格形成に悪い影響が出てしまうという」。
特に、深刻なのが、学校から一歩出ると教育の機会がない社会的弱者の子どもたちだという。「恵まれない子どもたちは、学校へ通わなければ、基本的な読み書きすら学ぶ場を失うだろう。また、長い間、学校に通わないことによって将来的にドロップアウトするリスクが高まるとも指摘されている」
それぞれの役割で
では、学校を開いて学びを止めず、しかも感染拡大をしっかりと防ぐには、どうすべきだろうか。社説は、次のように提案する。
「学校が、今、直面している問題に対応するためには、政府や行政当局は、新型コロナ対策のガイドラインや、感染状況のアップデートをきちんと学校側に示すことが大切だ。また、学校の運営者側も、ただ指示や通達を待つだけでなく、開示された情報をもとに自らの努力と工夫で子どもたちの学びを止めないための取り組みをすることが必要だ。たとえば、ソーシャルディスタンスを確保するために分散登校にすることも一案だ。生徒も先生も交代に登校することで、感染リスクを軽減しつつ学習を続けることができる」
そのうえで社説は、保護者の側も、不安を訴えるだけでなく担うべき役割があると指摘する。
「自分の子どもだけでなく、周りの子どもたちを守ることを考え、感染防止策を自ら徹底すべきだ。たった一人の不注意な保護者が外部から感染を家庭に持ち込めば、そこからクラスター感染が発生する可能性もある。コロナ禍の最前線にいるのは、実は保護者たちなのだ」
安全と、子どもたちの学び。新型コロナと共に生きていくことを覚悟するのであれば、確かに逃げ回っているだけでは解決しない。今こそ世界の教育関係者がつながり、経験やアイデアを共有し、すべての子どもたちが確実に教育にアクセスできる社会を構築しなければならない。
「子どもたちの学びを停滞させてはならない。ましてや、彼らを失われた世代の一部にしてはならない」――。世界共通の思いだ。
(原文:https://www.thestar.com.my/opinion/columnists/the-star-says/2021/04/25/we-cannot-afford-to-lose-a-generation)