成人識字率の停滞に苦しむバングラデシュ
人生の選択肢や自尊心に関わる施策の重要性を地元紙が強調
- 2020/9/19
日本の「成人(15歳以上)の識字率」は99%とされており、ほとんどの人が読み書きできる、とされている。しかし世界の平均となると78%、後発開発途上国だけ見ると60%前後に低下する。バングラデシュの英字紙デイリースターは、9月8日の世界識字デーを受け、翌9日の社説でこの問題を採り上げた。
目標と現実の乖離
社説は、バングラデシュ政府が取り組む15歳以上の大人を対象とした識字率向上キャンペーンについて「うまくいっているとは言えず、落胆している」と、述べている。
「デイリースター紙の報道によると、政府は2018年6月までに全国450万人が読み書きできるようにするというキャンペーンを展開していたが、3年連続で目標を達成できていない。15歳以上の210万人以上が今も読み書きができない状態だ」
同紙によれば、バングラデシュの成人識字率は74.7%だが、現与党のアワミ連盟は、政権を取る前の2008年、選挙公約として「2014年までに識字率100%を達成する」と掲げていた。「当時、15歳以上の識字率は48.8%だった。12年経った今も、識字率はまだ74.7%にとどまっている。掲げられた目標と現実との差は、強い政治的な意思が足りないからだ」と、社説は指摘する。
公教育が優先されてきたツケ
社説は「成人識字率向上の重要性は、軽視されてはならない」と、主張する。「成人識字率の低さによる影響は、経済面にとどまらない。読み書きができない大人は、人生における期待値が低くなり、社会で孤立しがちで、自尊心も低くなる。子どもたちの勉強を見てあげることもできないため、往々にして識字率の低下や貧困といった悪循環に陥りがちだ。政府が計画性のある事業を実施しない限り、多くの人たちが健康的な生活を送る機会を奪われる」
さらに社説は「政府の取り組みには危機感がない。政府は事業が停滞している理由として新型コロナウイルスの感染拡大を挙げるが、説得力はない」と、批判する。その理由として、社説は「新型コロナウイルスの感染拡大はごく最近の出来事であり、2014年から実施されているこの事業が停滞しているのと関係があるとは言い難い」と指摘した上で、次のように述べる。
「非公式な教育より公教育の充実が最優先されてきたため、成人識字教育への取り組みはきわめて手薄だった。さらに、前政権では、大人の識字率向上事業が不正や不透明さ、計画性のなさなどもあって成功しなかった」「もちろん、今後も新型コロナウイルスが識字率の向上になんらかの影響を与える可能性はあるが、それがビジョンのなさや失敗続きであることの言い訳にはならない」
成人の識字率向上には、子どもの教育とはまた違った難しさがある。当事者たちにはどのように識字の必要性を知ってもらえば良いか。また日々の暮らしに追われる大人たちに学習する時間と意欲を持ち続けてもらうことも難しい。しかし、社説が指摘するように、識字は暮らしに必要なだけでなく、その人の生きる選択肢や自尊心にまで影響するものだ。子どもたちの教育と同じぐらい、重要で緊急性の高い問題だと言える。
(原文: https://www.thedailystar.net/editorial/news/stronger-commitment-needed-address-adult-illiteracy-1958349)