ミャンマー国軍の大尉の息子が語る葛藤と軍の内情
現在の危機において、軍人の息子が抗議活動を続けること

  • 2021/4/19

ミャンマーでは2月1日のクーデター以降、少なくても700人以上の市民がミャンマー国軍の兵士によって殺害され、軍はその弾圧の手を緩めようとはしない。自国の市民を次々に虐殺する軍の残虐さは、一体、どんな理屈から起こるものなのか。
ヤンゴンに住み、反クーデターの抗議活動を続けている軍人の息子が、軍の考え方について、父と同僚の会話を基に理解し、「ティーサークル」というサイト上で発表した。

(c) YN

危機に対する新たな視点

 私の父はビルマの国軍の大尉だ。そして私は、軍に反対して抗議活動をしている若者の一人だ。連邦民主主義、正義、自由、そしてロヒンギャを含むミャンマーのすべての人々の平等を求めて軍に抗議している。

 私自身は、ミャンマーの問題を解決するためには国軍がいなくなることが重要だと考えている。しかし、父は、国軍こそが国家の救世主だという認識だ。国内政治や宗教問題について、私たち親子は間違いなくまったく異なる意見を持っている。そして、2月1日に起きた軍事クーデターによって、私たちの間の緊張関係は最高潮に達した。

 私がこれを書いているのは、軍人の息子として得た個人的な経験と、実際に軍人と接した経験によって得た理解が、複数の重要な論点に解をもたらすとともに、現在、この国で起きている危機に新たな視点を提供できるのではないかと考えているためだ。

 軍人たちは現状と、軍に抗議する者たちをどう見ているのか?ミャンマー国軍という組織は、彼らの考え方にどのような影響を与えているのか?そして、軍人たちは国内政治をどのように理解し、どう反応するのか?

共通した狭い考え

 父は、私と政治の話をするのを好むが、私たちの意見は異なる。私たちは直近だと今年の国軍記念日の前日である3月26日に電話で話した。連邦議会代表委員会(CRPH)のリーダーであるササ医師は、90人以上の民間人が犠牲になった国軍記念日を「恥ずべき日」と呼んだ。そして、私たちの議論は対立と口論に終わった。

 今回のクーデターが起きる前から、私は父とよく話した。さらに、父の友人や大尉や少佐クラスの同僚、そして末端の兵士たちと、家やティーショップ、レストランなどで意見を交換した。

(c) YN

 そうした会話を通じ、私は彼らが国内政治に対してどう考えているか理解できるようになった。その中には、彼らがなぜデモ参加者を犯罪者と見なすのか、その理由を理解する上でのヒントがいくつもあった。

 ほとんどの軍人は、国内の政治や宗教について、共通した狭い考えを持っている。彼らの理解は、主にアウン・サン・スー・チー氏もしくは国民民主連盟(NLD)に反対する誇張と、仏教のナショナリズムに基づいており、アウンサンスーチー氏を民主的に選ばれた真の国民のリーダーとして受け入れるのではなく、外国に忠誠を誓って外国人と結婚し、イスラム教徒やロヒンギャのために働いている人物だと考えている。スーチー氏が2019年12月の国際司法裁判所(ICJ)で軍の機関を弁護することを決めたにもかかわらずだ。

 他の保守的なビルマ仏教徒と同様、ほとんどの軍人は強い反イスラム感情を持っており、それが2016年から2017年にラカイン州北部でロヒンギャに対する深刻な迫害の容認に繋がった。このような考えは、旧軍事政権や、軍の支援を受けた連邦連帯発展党(USDP)など関連団体の作り出すプロパガンダによって発せられ、悪化した。これらの組織は、宗教を政治的利益のために定期的に利用している。さらに、多くの軍人がソーシャルメディア、特にFacebookでヘイトスピーチやフェイクニュースに接している。

国軍の憎しみと敵意

 現在の危機的な状況についても、私が話した軍人たちは、前将軍と現将軍に対して前向きにとらえている。彼らにとって、国軍はミャンマーで最も強い組織であるだけでなく、国に不可欠な救世主でもあるのだ。私の父は30年間軍人として働き、その思考のほとんどは国軍によって形成されている。国軍より優れた指導者や組織はないと考えている。

 ラカイン州、カチン州、シャン州、カレン州で数十年にわたって少数民族武装組織と戦いながら民間人の人権を侵害してきた国軍のやり方を考えると、非武装で抗議する無実の民間人への残忍な弾圧を現在も躊躇なく続けていることは驚くに値しない。実際、過去にも同じようなことがあり、1998年、2007年、2017年にも同様の弾圧があった。

 ニューヨーク・タイムズ紙の「ミャンマー国軍の内部─抗議する人々を犯罪者とみなす軍人」と題された記事では、トゥン・ミヤット・アウン大尉を含む4人の脱走兵へのインタビューがハナ・ビーチによってまとめられている。市民的不服従運動(CDM)に参加したこの軍人たちは、いかに国軍が軍人に国家の守護者であるという考えを植え付けているか証言する。それゆえに多くの軍人は、スーチー氏やNLDを支持する抗議者を、国家行政評議会(SAC)の規則や規定を破る犯罪者と見なしている。

 また他にも重要な点は、現場の軍人たちは、市民の抗議をスーチー氏への支持表明以上のものとは見ていないということだ。彼らは、市民らが単に同氏への支持やNLD指導者たちの釈放を要求しているにとどまらず、それをはるかに超えたものを求めていることを理解できていない。強い憎しみと敵意を持つ傾向のある国軍が国内政治と現在の状況を誤って解釈していることから、非人道的で残忍な弾圧はこの先も悪化するだろう。

(c) YN

将来の世代のために

 現在のミャンマーの状況は、国家的にも個人的にも私には重大なターニングポイントになっている。軍人の息子である私や家族がクーデターに反対の声を上げるのはすでに危険なことで、その結果は明らかだ。前回父と話した時、私は父が正義のために立ち上がる抗議する市民に加わり、父が名誉と尊厳とともに記憶されるのではないかという漠然とした期待を抱いていた。それはすなわち、国軍が行っていることが正しいことではないという基本的な事実を父に理解してもらうことであったが、それすら非常に困難だった。もし、私が自分の命を懸けて軍に抗議し、ミャンマー中の人々から称賛を受けたとしても、父が私を誇りに思うことはないだろうと思うと、悲しくなる。

 最後に、私の大好きなアニメーション映画『ロラックスおじさんの秘密の種』からの引用を、ミャンマーの仲間たちに伝えたい。
 「あなたのような人が、心底、気に懸けてくれない限り、事態は何も良くなりません」
 だからこそ、どんな犠牲を払ったとしても、将来の世代のために軍を止めることが私たちの責任なのだ。

——
著者のリオ(仮名)は、ミャンマーのヤンゴンにあるダゴン大学で国際関係論を専攻し、卒業した。興味分野はミャンマーの政治と国際関係。今年の2月以降、ほとんどの時間を軍に対する抗議活動や政治関連の書籍、記事、エッセイ、ニュースを読むのに費やした。これを書いたのは、現在の危機的状況に対する適切で新しい視点を読者に提供したいと考えたためだ。

 

(編集部注:)
This post was originally published in English at Tea Circle, a blog of new perspectives on Burma/Myanmar. Dot World is responsible for the translation into Japanese.

 この記事は、ビルマ・ミャンマーに関して新たな見方を提供するブログ「ティーサークル」に英語で掲載されたものを、ドットワールドが日本語に翻訳した。

 「ティーサークル」は、世界中の投稿者がミャンマーに関する研究や分析、書評などを投稿するサイトで、オックスフォード大学のミャンマー研究プログラムが設立し、現在はトロント大学の東南アジア研究センターが運営している。

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