ウクライナ冬の旅(前編)
〜27年前の蒸気機関車撮影ツアーより

  • 2023/2/22

ロシア軍がウクライナに侵攻して 1年。
報道などでウクライナ各地の地名を耳にするたびに、
27年前の冬に見たウクライナの記憶がよみがえってきます。
参加したのは蒸気機関車の撮影ツアー、
1995年12月29日から1996年1月6日に催行されたものです。

反対側のホームに停まった列車の窓に氷の華が咲いていた。©Koji Yoneya

 蒸気機関車撮影ツアーと言われても、ピンとこないのではないかと思います。

1996年当時、ウクライナに現役の蒸気機関車の姿はなく、 駅のホームでは蒸気機関車を懐かしげに眺める住民の姿が見られた。©Koji Yoneya

 8両編成の客車で編成されたツアー専用列車を蒸気機関車が牽引します。駅で停車する姿を撮影できるのはもちろんですが、駅間でも撮影が可能です。 駅間の景色の良い場所で列車が停まると、ツアー参加者はホームもない場所でデッキから線路脇に下車します。列車を降りた参加者は、列車がバックしている間に思い思いの場所を見つけてカメラをセット。一旦バックした列車が戻って、目の前を通過する姿を撮影するというものです。

橋のたもとで降りたツアー参加者は、列車がバックする間に川べりまで降りて、 戻って来るツアー列車を撮影。〝ランパスト〟と呼ばれる撮影スタイル。©Koji Yoneya

 列車の先頭に立つのは本物の蒸気機関車で、空高く煙を吐きながら走る姿は迫力満点。更に自然豊かな風景や、生活が感じられる街並みを入れて撮影することで、ウクライナらしさを撮影できるという内容です。

1996年冬のツアーでは、主にウクライナ南西部を巡る行程。ルーマニア国境のラホフへ向けて、カルパチア山脈の山懐へ分け入ってゆく。©Koji Yoneya

 このような撮影は〝ランパスト〟〝フォトランバイ〟などと呼ばれる撮影スタイル。撮影後は再び列車に乗り込んで移動し、次の目的地へ到着すると再びカメラを手に線路脇に降りて、自分の好きなアングルを探します。こうして1日数回のランパストを繰り返しながらツアーが進められました。列車の編成は時に貨物車両を繋いだり、2分割してそれぞれ別の機関車を仕立てたりと、趣味的にも多彩な姿を愉しむことができました。

〝シベリアの女王〟と呼ばれたソビエト連邦最大の急行形蒸気機関車P36形。 ベラルーシ国鉄の所属で、はるばるやって来ました。 凍てついた平原を走る姿はこのツアーの目玉的な存在。©Koji Yoneya

 ツアーを企画したのは、世界の蒸気機関車を追いかけている神谷武志さんで、ロシア旅行が専門のユーラスツアーズの募集により催行されました。

蒸気機関車を操る運転士たち。©Koji Yoneya

 ウクライナは1991年8月にソビエト連邦の崩壊によって独立。この時すでにウクライナ鉄道の本線上から蒸気機関車は消えていましたが、有事に備えソ連時代の蒸気機関車が稼働状態で保存されていました。この機関車をウクライナ鉄道などが出資する第三セクターの旅行社〝ゼレロ(Dzherelo)〟が活用。世界中の鉄道ファンをターゲットにツアーが企画されたものです。ソ連時代は鉄道の撮影は御法度でしたから、ツアーが解禁されると世界中の鉄道ファンが飛びつきました。ウクライナにとっては格好の外貨獲得手段。またチェルノブイリ原発事故後10年ほどでしたので、イメージアップを図るうえでも海外からの観光客を呼び込みたかったという話も現地で聞かれました。 

雪のなかで機関車のメンテナンスに勤しむ。©Koji Yoneya

 専用列車の客車は1車両9室の2人用コンパートメントで6泊を車中で過ごします。いわば列車がホテル代わり、食事は食堂車でいただきます。ウクライナの郷土料理〝ボルシチ〟は食堂車のコンロでジックリと煮込まれた本格的な味でした。

食堂車で提供されたボルシチ。食堂車のコンロで煮込んだ本場の味。 ©Koji Yoneya

食堂車の女性スタッフ。©Koji Yoneya

 食堂車のほかにサロンカーも連結され、新年のカウントダウンはウォッカで乾杯。また楽団が乗り込んで演奏会が催されるなど、専用列車という閉鎖的な空間ながら、食文化や音楽にも触れることができるツアー内容でした。

車内のサロンカーでウクライナの民族楽器「バンドゥーラ」の演奏。外は雪景色、歌声がしみじみと響く(音源あり)。©Koji Yoneya                             

                                     (▲ バンドゥーラ演奏の音源が流れます ▲)

ルーマニア国境ラホフは鉄路の終端。教会の鐘が静かな谷あいの街を包み込む。 ©Koji Yoneya

              ⇒  「ウクライナ冬の旅(後編)」へと続きます

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