コロナ禍のパキスタンでデング熱の感染が拡大
医療インフラはすでにひっ迫、態勢強化が喫緊の課題
- 2021/10/4
新型コロナに限らず、人類はさまざまな「感染症」と闘っている。特に、医療インフラがぜい弱な発展途上国では、季節によって深刻な問題になる。9月24日付けのパキスタンの英字紙ドーンは、社説でこの問題を採り上げた。
死者も出始めたデングモンスター
パキスタンで今、猛威を振るっているのは「デング熱」だ。ネッタイシマカなどの蚊を媒介したデングウイルスによる感染症で、熱帯・亜熱帯の地域を中心に100カ国以上で発生しているといわれる。人により症状や程度は異なるが、高熱、頭痛、筋肉痛などの症状があり、皮膚の発疹がみられるケースもある。症状が悪化すると死に至ることもある。
社説はこれを、「デングモンスター」と呼ぶ。
「デングモンスターがまたパンジャブ地方の各地でその頭をもたげている。今年はこれまでに820人が感染し、そのうち687人がラホールに集中している。ラホールでは、これから続く雨により、さらなる感染拡大が懸念されている」
デング熱を媒介する蚊は、雨が降り続いた後の水たまりが多い時期に幼虫が育ちやすい。社説によると、ラホールではすでにデング熱による死者が1人出ている上、1日に126人の感染が確認されており、「効果的な対策をとらなければ、事態が制御不能になる恐れもある」という。
デング熱の感染が拡大しつつあるのは、ラホールだけではない。ラワルピンディでは50件の感染例が出ているほか、マンセラでも感染例が増えており、これまでに少なくとも2人が死亡したと社説は報じている
感染爆発も懸念
こうした状況を受けて、ラホールやラワルピンディを含むパンジャブ州では移動医療チームの活動を開始し、より詳しい現状調査と対策に乗り出したという。例えば、タイヤショップや墓地で燻蒸をしたり、下水の停滞水を排水したりする活動が行われている。
「さらに必要なのは、デング熱の予防策を周知させる大規模な啓発活動だ。デングウイルスを媒介する蚊は、夜明けと夕暮れにだけ活動すると信じている人は多い。確かに夜明け後の2時間と、日が落ちる前の2時間に蚊は活発になるが、実際には、日中も活動しているのだ」
パキスタンでは、2019年に「感染爆発」に近い状況が起きたという。当時、パンジャブ州では感染者が8670人を超え、全国で5万人以上が感染した。
「今は新型コロナ対策のただなかで、医療インフラはすでに限界の状況にある。別の感染症の感染が拡大したら、到底、持ちこたえることはできない」と、社説は危機感を隠さない。
デング熱に限った話ではないが、「コロナ禍でなければ救えたのに」という命があってはならない。しかし、現実には、多くの途上国で、このようにコロナ以外の疾病治療へのしわ寄せが起きている。基本的な医療態勢の強化が、グローバルな課題となっている。
(原文https://www.dawn.com/news/1648071/rising-dengue-cases)