ミャンマーで拘束の久保田徹さん 原点は館林のロヒンギャ社会
友人の写真家が展示会

  • 2022/8/15

 ミャンマーで7月30日に拘束されたドキュメンタリー作家、久保田徹さんは、大学生の頃からミャンマーのイスラム系住民ロヒンギャの問題に取り組んできた。その原点は、館林市に暮らすロヒンギャ・コミュニティにある。8月12~14日、ロヒンギャ取材の長い新畑克也さんの写真展がこの地で開かれた。そこには、久保田さんの解放を求める展示もあった。写真展をめぐる人たちの声から、この地に色濃く残る久保田さんの足跡を追った。

難民キャンプからも解放求める声

 「久保田さんは帰ってきて、自分の身に起きたことについてレポートしてくれるに違いない」。展示会場でそう話すのは、在日ビルマロヒンギャ協会副会長、アウンティンさんだ。久保田さんは慶応大学の国際支援サークルの活動で、アウンティンさんと出会った。歴史的に外国人労働者の多い館林市には、日本最大の2百数十人のロヒンギャが暮らすといわれている。

展示された久保田徹さんの顔写真の前で話すアウンティンさん(筆者撮影)

 久保田さんはアウンティンさんとともにミャンマーを訪れたほか、バングラデシュ・コックスバザールのロヒンギャ難民キャンプを一緒に回った。バングラデシュで難民の支援を行うアウンティンさんを主人公として「祈りの果てに」という作品も発表している。アウンティンさんは「コックスバザールの難民キャンプでも久保田さんはよく知られている。キャンプから彼の釈放を求める声が届いている」とも話す。

 今回の写真展は「ロヒンギャを忘れない」と題したもので、久保田さんの友人でもある新畑さんがバングラデシュで撮影したロヒンギャ難民や、ミャンマー・ラカイン州の市井の人々の写真などで構成されている。新畑さんは「2017年のロヒンギャ危機の前にロヒンギャ問題を取材していたのは、私と久保田さんくらいだった」と振り返る。展示会中に新畑さんは「特に来てほしかった仲間の姿がない」と交流サイト(SNS)に書き込んだ。

写真展を開いた新畑克也さんは久保田徹さんの友人だ(筆者撮影)

 展示の中央には、顔写真と共に「クボタ・トオルさんを助けてください!!!」と大きく書かれたパネルが目を引く。久保田さんの親友で在日ロヒンギャのミョーチョーチョーさんが用意したものだ。ミョーチョーチョーさんは、久保田さんが拘束された一報を聞くと、即時解放を求めるデモを計画。翌日には外務省に集まった約100人の前で、このパネルを掲げて「日本政府はミャンマー軍部に圧力をかけてください」と叫び声をあげた。

子どもたちも「早く帰ってきて」

 彼を心配しているのは大人ばかりではなかった。中学2年の鈴木聡真さん(14)らは、この写真展で久保田さんの解放を求める展示を貼り出した。鈴木さんら子どもで作るボランティアグループ「僕たち私たちにできること」は2020年、ロヒンギャ難民のためのクラウドファンディングを実施し、なんと300万円以上の寄付を集めている。その際にアドバイスをくれたのが久保田さんだったという。

久保田徹さんを救出するための展示をした鈴木総真さん(右)ら子どもたち(筆者撮影)

 子どもたちは当初、プロジェクトに使うロヒンギャの映像を借りるために久保田さんに連絡をとった。すると久保田さんは館林までやってきて、子どもたちの活動をまとめた映像作品を制作してくれたのだという。鈴木さんは「ロヒンギャやミャンマーに詳しかった。動画の撮影の仕方も教えてくれた。捕まったと聞いてびっくりして戸惑うしかなかった」と話す。

 子どもたちは、すでに計画を進めていた自分たちの活動を紹介する展示に、久保田さんの解放のメッセージを盛り込むことにした。模造紙には久保田さんが子どもたちを撮影する写真とともに、「なんどもたてばやしに来てくれた」などと、彼との思い出が詰め込まれている。展示に込めた思いを「多くの人に知ってもらうことで、国に動いてほしい」と鈴木さんは説明した。

ミャンマーで不当に拘束されている久保田徹さん(友人提供)

 館林の人たちの声を聞くと、ここで久保田さんがいかに多く影響を与えてきたのかがわかる。彼のドキュメンタリストとしての出発点であり、今もこの地の多くの人が帰りを待っているのだ。再び彼が笑って館林を訪れる日が近いことを、みな待ち望んでいる。

 

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