「看護師供給国」のフィリピンで看護師が不足
止まらない海外流出、地元紙がリスクと負担に見合った適切な報酬を要求

  • 2021/11/18

 新型コロナの感染拡大で最前線に立ち続ける医療関係者。感染者数が減った今もなお、彼らのたたかいは続いている。10月31日付のフィリピンデイリーインクワイアラーは社説でこの問題を採り上げた。

© Laura James / Pexels

報酬は海外の10分の1

 「世界最大の看護師の供給国と言われたフィリピンで看護師が不足しつつあるのは、なんという皮肉だろうか」
 社説は衝撃的な書き出しで始まり、こう続ける。
 「この国で多くのフィリピン人看護師が家族を残し、職を求めて海外に出るのは珍しいことではない。この国で働くより、海外に出た方が、看護師たちは10倍の給与を得られるのだから」
 社説によれば、ここ数週間だけ見ても、国内の医療従事者の約10%が海外での就労を希望し、政府に登録したという。医療従事者が仕事を求めて海外に出ることはコロナ禍以前にもあったが、新型コロナの感染拡大がこの傾向に拍車をかけた、と社説は言う。
 「コロナ禍は、医療の最前線に立つ彼らにあまりにも大きな負担がかかった。にも関わらず、彼らはふさわしい報酬を得ることができず、政府の約束が果たされていないため、看護師をはじめ、医療従事者の海外流出に拍車がかかっている。現状が続けば、これから半年以内に彼らはさらなるしわ寄せを受け、この国の医療保健システムが麻痺するという見方もある」
 社説によれば、フィリピン政府は医療従事者の海外就労の上限を年間5000人に設定しているが、はや6月までに5000人に達し、医療現場から「海外就労者がこれ以上増えれば、代わりの医療従事者が見つからない」という悲鳴が上がっているという。
 看護師たちが海外就労を希望する主な理由は、賃金の低さと、精神的、身体的な負担の大きさだ。
 「ほとんどの退職者は私立病院の看護師で、最低賃金は1日あたり537ペソ(約1215円)、あるいは月額で1万1814ペソ(約2万6754円)である。公立病院であれば、若い看護師でも月額8000ペソ(約1万8117円)から1万3500ペソ(約3万567円)は保証されるため、公立病院に移る者もいるが、海外で稼ぐことができる金額は破格だ。例えば、米国では平均で月額3800ドル(20万ペソ、約45万2850円)、英国では月額1662ポンド(11万6000ペソ、約26万2726円)、そしてカナダでは4097カナダドル(16万7000ペソ、約37万8154円)を稼ぐことができる」

労働環境の改善を

 さらに社説は、次のように政府の姿勢を批判する。
 「看護師たちが不満を抱いているのは、給料よりも政府の態度だ。看護師たちは、十分な防護もなく、適切な補償もないままに、命を懸けて新型コロナの感染拡大に対応させられた。それによって、看護師のマリア・テレサ・クルーズさんが亡くなったことはよく知られている。彼女は政府から危険手当を受け取る前に亡くなったが、それ以上に、その手当が1日あたりわずか60ペソ(136円)だったことが、医療関係者たちに衝撃を与えた」
 社説によれば、フィリピン保健省は9月までに危険手当や特別リスク手当や食費、交通費として累計143億ペソ(323億8467万8000円)を支出した、と発表している。しかし、これは医療従事者たちが正当な手当を求めて抗議行動を行った後にようやく支払われたものだという。
 「医療従事者が不足しているのは、フィリピンだけではない。しかし、他の国々では、医療従事者の労働環境の改善が進められている。例えば米国では、看護師不足を補うために、看護師に対するさまざまなインセンティブボーナスや無料のメンタルヘルスサポート、短期セラピーなどの制度が整えられた」
 フィリピンの看護師団体の代表は、「月収がわずか8000ペソ(約1万8117円)から1万ペソ(約2万2644円)という現状を考えれば、海外に流出する看護師たちを責めることはできない。フィリピンが看護師不足に陥る恐れがあるからといって、海外就労を禁止しても問題は解決しない。仕事に見合った適切な報酬と適切な支払いが必要だ」と、訴える。
 言うまでもなく、看護師はボランティアではない。生業である。私たちは、「命を扱う特別な現場」ということで、彼らを含む医療従事者に対して、過剰な期待と奉仕を強いてはいないだろうか。期待をするなら、当然、それにふさわしい報酬が必要だ。フィリピン政府だけでなく、我々一人一人の心にも、同じ思い込みがなかっただろうか。コロナ禍を機会に見直してみたい。

 

(原文:https://opinion.inquirer.net/145832/exodus-of-nurses)

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