映画を武器に闘うミャンマー人監督「軍事独裁からの脱却に命を捧げる」
抵抗と闘争、祈りを描いたセルフ・ドキュメンタリー『夜明けへの道』が日本で劇場公開

  • 2024/4/25

民主化への願いを乗せ、劇場公開へ

 コ・パウ監督の意志を受け、日本での映画の公開に尽力した人がいる。2014年末からヤンゴンに拠点を構え、クーデター当時、抗議デモなどを取材して軍に逮捕された、ジャーナリストの北角裕樹さんだ。日本に送還されてからも、在日ミャンマー人らとともに民主化運動を支援し続けてきた。今回の劇場公開は、2023年に在日ミャンマー人らが自主上映していたこの作品(編集部注:当時の邦題は『夜明け』)に関心をもった配給会社太秦に、北角さんがコ・パウ監督を紹介したことによって実現した。

軍政への抵抗を示す3本指を立てる北角さん(2021年2月、ヤンゴンで本人撮影)

 北角さんを民主化支援に突き動かすのは、「人々がいろんな夢を持てた時代を取り戻したい」という強い願いだ。クーデター前、北角さんは、「コ・パウ監督を含め、すごく楽しそうに映画を作っている人たち」の姿を目の当たりにしてきた。2011年の民政移管以降、軍による厳しい検閲が緩み、ミャンマー独自の映画祭や、海外との共同制作など、新しい気運に盛り上がっていた頃だ。
 しかし人々の夢は、クーデターで突然、潰えた。北角さん自身も、現在、軍政下のミャンマーには入国できず、「ヤンゴンで仕事をしたい」という思いは宙に浮いたままだ。それでも、「彼らと同じものを取り戻したいと願う一人として、現地の人々の声をしぶとく拾い上げ、伝えていきたい」と語る。

北角さんは、映像作家の久保田徹さんと共に、ミャンマー人のクリエイターを支援するオンラインプラットフォーム「ドキュ・アッタン」を立ち上げた。クーデターが人々にもたらした現実をミャンマー人自身が撮影した貴重な動画が公開されている。

 長年にわたる軍の支配に終止符を打ち、民主主義を取り戻すための闘いを、ミャンマーの市民たちは願いを込めて「春の革命」と呼ぶ。コ・パウ監督は映画の中で、「革命には、命をかけて戦う人も、インターネット上で活動する人も、どちらも必要です。海外に住む市民たちの支援も欠かせません」と話す。『夜明けへの道」の公開も、まさに、コ・パウ監督の思いを、民主化を願う様々な人々がつなぐことで実現した。この映画は、抵抗と闘いの記録であると同時に、自由な民主国家への夢をのせた、人々の祈りそのものなのかもしれない。

『夜明けへの道』
©Thaw Win Kyar Phyu Production
公式サイト:https://yoake-myanmar.com/
監督・脚本・撮影:コ・パウ
プロデューサー:アウンミンナイン 編集:ドーナマウン メムテッウィン コ・ピョー
音楽:コ・パウ コ・ピョー 歌手:ミンモゴン コ・パウ
英題:RAYS OF HOPE 協力:北角裕樹 配給・宣伝:太秦
【2023年/ミャンマー/101分/16:9/ステレオ/ミャンマー語】

 

 

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