肌の漂白剤で蝕まれる健康と美(上)
正体の分からない薬剤に人々は何を託すのか
- 2019/8/20
テレビで火が付いた漂白ブーム
古今東西、肌の色は美しさを決める基準の一つである。「美」の定義は、時代や社会によって変わるものであるが、日本に「色白は七難隠す」ということわざがあるように、多くの場合、肌の美しさの基準は「色白」によって判断される。そして近年、アジアやアフリカを中心に、自らの本来の肌の「漂白」してまで「美白」しようとする女性が増えている。
ケニアで肌の漂白が注目されるようになったのは、2014年に歌手兼タレントであり「メディアのお騒がせ者」と呼ばれるヴェラ・シディカが過激なまでに肌を漂白してテレビに登場したのがきっかけだった。SNSやテレビ番組で「肌を漂白した」と公言する彼女は、なんと1,500万シリング(約1,700万円)を「美白」に費やしたという。彼女のカミングアウトと相前後して、ケニアではテレビ関係者を中心に肌を漂白する女性が急増。さらに、漂白クリームを買い求める男性も増えつつある。
黒人として生まれた彼らが、なぜ白い肌を求めるのか。取材を進めるうちに、単なる美意識や価値観を超え、根深い健康問題、そして社会問題が明らかになってきた。
相次ぐ健康被害と広まる使用禁止の動き
世界保健機関(WHO)が2011年に発表した『肌の漂白剤に含まれる水銀成分』というレポートによると、中国の女性の4割、インドの女性の6割が肌の漂白を行っているという。さらに、同レポートは、アフリカ大陸の場合、トーゴの女性の59%、ナイジェリアの女性は実に77%の女性が漂白剤を使用していると指摘。こうした漂白剤に含まれる水銀成分によって、腎臓障害をはじめ、発疹(はっしん)、癌(がん)を発症したり、精神的にも不安障害や鬱(うつ)など悪影響が及んだりしている、と警鐘を鳴らす。
東アフリカ立法議会も、ほとんどの漂白剤に含まれているハイドロキノン(二価フェノール)がアレルギー性皮膚炎や嘔吐下痢を引き起こすとして問題視し、今年4月、製造と輸入を規制する法案を可決した。
また、肌の漂白剤に関する報道も増えている。特に、AFP通信が昨年報じたナイジェリア人女性医師の記事は、世界的な注目を集めた。その女性医師は、親が赤ん坊に漂白剤を塗って色白に見せようとする都市伝説のような習慣を耳にしたことはあったものの、実際に生後二ヵ月の赤ん坊が漂白剤で重い肌荒れを起こしているのを目にして、ひどく衝撃を受けることになった。そのことを伝えるAFP通信の記事がアフリカのメディアで次々に取り上げられたのを機に、漂白剤問題が白日の下にさらされることになったのだ。