スーチー氏有罪判決をネパールの社説が批判
「ミャンマー情勢は他人事ではない」

  • 2022/1/23

 2021年2月1日にミャンマーで起きたクーデターにより身柄を拘束されている民主化指導者のアウンサンスーチー氏に対し、首都ネピドーの裁判所は今年1月10日、無線機を違法に輸入したなどとして禁錮4年の有罪判決を言い渡した。ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、1月12日の社説でミャンマー軍を批判するとともに、同国の情勢に強い懸念を示した。

(c) Saw Wunna /Unsplash

国際社会の動きも非難

 アウンサンスーチー氏に対するミャンマー軍の処遇について、社説はまずこう非難する。
「ミャンマーの民主化運動の指導者であるアウンサンスーチー氏は、昨年2月のクーデター以来、拘束されたままで、いまも安息とは無縁の状態に置かれている。このほど有罪判決が言い渡されたが、そもそも同氏の起訴内容はといえば、無許可で無線機を輸入したとか、2020年の選挙運動の際に新型コロナ対策を守らなかったとか、非常にばかげている。しかし、それこそがミャンマー国軍の独裁下で実際に起きていることなのだ。ミャンマー軍の独裁ぶりは際限がなく、民主化運動の指導者の正当性さえ危機に直面している」
 その上で、国際社会の動きについても、「当初は大騒ぎしていたにも関わらず、いまだにミャンマー軍に実質的に圧力をかけ、人生の大半をミャンマー軍によって抑圧されてきた同氏を解放させることすらできていない」と嘆き、「アウンサンスーチー氏にはさまざまな罪が着せられ、求刑は100年以上に上る。このままだと、現在76歳の同氏は、ずっと囚われたまま外に出られない」と、危惧する。

「民主主義の緩やかな死」

 とはいえ、社説はアウンサンスーチー氏を単純に偶像化しているわけではない。社説は「国家顧問に就任し、事実上の指導者になってからの同氏は、必ずしも常に正しかったというわけではない」とした上で、特に、少数派イスラム教徒系ロヒンギャの問題については、「軍の方針に従い、何十万人ものロヒンギャの人々が国境から追い出された時にも、同氏は介入しなかったため、民主化指導者としての信頼に疑問符がついた」との見方を示す。
 その上で、「過去を思い返してみれば、彼女は話すことを強く警戒をしていたのかもしれない」とも述べ、長く拘束・軟禁下にあった同氏に理解も示している。
 さらに社説は、アウンサンスーチー氏が置かれている状況は、権威主義にノスタルジーを抱く人々への警告だと指摘し、次のように続ける。
 「サミュエル・ハンチントン氏は、著書『第三の波』の中で、権威主義へのノスタルジーはある環境下において民主的体制を緩やかな死へと導き、軍やその他の権威的な力が勃興する、と指摘している」
 民主化の途上で混乱や格差や不公平感が露呈すると、一時的に在りし日の権威主義時代に戻りたいと思ったり、懐かしんだりする気持ちが生まれることもある。そうした感情は、一時的で表層的なように思えても、束になれば、民主化への道を妨げかねない。だからこそ社説は、「ミャンマーで起きていることは他人事ではない」と、主張する。
 「民主主義に代わるものは、“より良い民主主義”以外にあり得ない。決して、権威主義や専制主義が取って代わることはない。より頑丈な民主主義を確立するために、日々、闘い続けるしかないのだ」
 ミャンマーで民主主義のために闘い続ける人々に敬意を表しつつ、これを人類全体の教訓としなくてはならない。

 

 (原文:https://kathmandupost.com/editorial/2022/01/11/no-respite-for-suu-kyi)

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