ラテンアメリカの今を届ける 第8回
「独裁体制への転換が完成」したニカラグアを読む

  • 2023/9/4

ベネズエラからの支援を受けて権力に執着

 一度失った権力を強化し、「独裁体制への転換」を進めてきたオルテガ氏にとって、1999年に南米・ベネズエラの大統領に就任したウーゴ・チャベス氏の存在は後ろ盾として非常に大きかった。チャベス大統領は2000年代、天然資源の価格高騰を受けて反米・社会主義路線を打ち出した。世界有数の産油量を誇る石油を介して周辺国を支援し、域内の同盟を強化しようとしたのだ。その恩恵を最も受けた国の一つがニカラグアであり、2007年から2016年までにベネズエラから受けた支援額は、37.21億ドル(約3700億円)に上った。

首都マナグアの旧市街の中心部に、故ウーゴ・チャベス元ベネズエラ大統領のモニュメントがそびえ立つ(2021年11月、筆者撮影)

 オルテガ氏はベネズエラからの支援を受けて社会保障や公共事業の拡充を進め、国民の支持を得た。しかし、こうした構造が腐敗の温床になった側面も否定できない。ベネズエラからの支援の受け入れを、オルテガ氏自身が設立した民間企業が担い、資金の使途を政府や議会に報告する義務がなかったからだ。さらに、こうした企業の子会社に彼の親族や側近を就任させて資金を私的に流用した疑いも出ている。前述のメディア買収にもこの資金が使われていたと報道されている。

 さらに同氏は2014年に憲法改正を強行して大統領の再選禁止規定を撤廃し、無期限再選への道を開いたうえで、自身の周囲を信頼できる人物で固めている。2017年には自身の夫人を副大統領に据え、2021年に再選させた。また、最高裁判所の判事も過半数はオルテガ氏が指名した人物だ。2022年11月に行われた統一地方選では、ニカラグアの全153市で与党FSLNの市長・副市長が勝利した。国会でも全議席の8割超をFSLNが占め、司法、最高選管もFSLNの影響下にあるとされる。

 一方、2023年3月には突如、222人の政治犯を釈放したものの、彼らの国籍を剥奪して国外追放に処すことを発表した。さらに後日、主に国外に亡命していた98人からも国籍を剥奪することが発表された。

力づくでは消せない抵抗の意思

 2018年に全土に広がった反政府抗議活動が武力で鎮圧され、300人とも600人とも言われる人々が殺害されて以来、15万4000人以上が隣国コスタリカへ亡命を申請し、アメリカへの入国者も急増するなど、国民の流出が止まらないニカラグア。そうした状況下でも、抵抗の声を上げようと苦心する市民がいる。筆者は現地に滞在していた2019年8月にも、「来たる8月23日の18時に、車やバイクのクラクションを一斉に鳴らして政治囚の解放を訴えよう」という投稿がSNS上に盛んに流れていた。弾圧が強まり、人が集まり声を上げることすら難しくなりつつある中でもなんとか抵抗の意思を示そうという呼びかけだった。

「万歳 自由ニカラグア #SOS」 2018年の抗議活動の際に書かれたメッセージが路地に残っている(2019年7月、筆者撮影)

 当日、人々が鳴らすクラクションを記録しようと、2018年にデモ隊が拠点にしていた場所に行ってみた。ふと気付くと、ピックアップトラック数台が筆者の後ろについてきていた。荷台には武装した警官が乗っている。震える膝を押さえ、何気ない風を装いながらゆっくり歩き、近くの商店に入った瞬間、汗がふきだした。18時になるまで時間を潰し、もう一度、同じ場所に向かった。すぐに撮影できるようビデオモードにした一眼レフカメラをレンズだけ出し、周囲から見えないようにシャツで包んだ。しかし、その直後に再びピックアップトラックが目の前を通り過ぎたため、焦って操作を誤り、画像が真っ暗なまま録画を始めてしまった。18時を回った頃、目の前を通り過ぎるバイクが数回、クラクションを鳴らした。遠くの方からも、複数のクラクションが繰り返し鳴っているのが風に乗って聞こえてきた。徹底的に自由を抑圧しようとする独裁者への抵抗であり、力づくでは消すことができない意思の表れだと感じた。宿に戻ってから確認すると、画像は不明瞭ながら、クラクションの音はなんとか録音できていた。

抗議活動に参加中、息子を治安機関に射殺された母親。墓前に花を手向けると、「息子に殺される理由など何もなかった。私は政府に真相究明と謝罪を求めます。それがこの国が失った法の支配と民主主義の再構築につながると信じています」と語った(2021年11月、筆者撮影)

 ニカラグアは今、国内で抗議の声を上げることは限りなく難しい状況にある。しかし、周辺国へ亡命した人権団体や報道機関が、協力者からの情報をもとに日々、国内の様子を世界に伝え続けている。いくら押さえつけても、自由を求める声を消すことはできない。かつてそれを証明したのが、革命に命を賭したオルテガ氏自身だったはずである。

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