タイ国境の「忘れられた」ミャンマー難民の今
流入から35年経っても祖国への帰還進まず
- 2019/12/30
南北約2,000キロにおよぶタイとミャンマーの国境に今なお難民キャンプが点在し、9万3,206人(2019年11月末時点、国連難民高等弁務官事務所:UNHCR調べ)の難民が避難生活を送っていることをご存知だろうか。彼らが「忘れられた難民」と呼ばれている背景には、キャンプの設立から35年の間に蓄積されたさまざまな要因がある。そんなキャンプの1つで12月上旬に開かれた図書館委員会の会議に出席した。
最大かつ最古のメラ難民キャンプ
タイとミャンマーの国境には、9つの難民キャンプが点在し、合計9万3,206人が住んでいる。
その中で最大かつ最古と言われるのが、タイ北西部のメソトから約57キロ北上したメラ難民キャンプだ。わずかな平地に竹や木の葉の簡素な高床式家屋が並ぶこの地は、12月に入ると朝晩の気温が10度近くまで冷え込む。
ミャンマー国境から8キロという立地から、このキャンプには、カレンの自治を掲げる武装組織のカレン民族同盟(KNU) とミャンマー国軍の戦闘から逃れてきた3万4,597人ものカレンの人々が暮らしている。この戦闘はミャンマー各地で1948年より続く内戦の中でも最大規模と言われ、民間人への略奪や強制労働などの人権弾圧も頻発したため、タイ政府によって1984年、このキャンプが設立された。カレン軍と政府軍は2015年に和平合意を締結したものの、一部地域では今も戦闘が続き、戦いが繰り広げられた村には地雷が埋まったままだという。
メラ難民キャンプは、タイ内務省が管轄し、 UNHCRが難民の保護を担当している。運営は内部で選出された自治組織の難民委員会が自主的に行い、12の国際NGOが衣食住医から衛生、医療、教育などを担当している。
筆者が所属するシャンティ国際ボランティア会(SVA)は、日本で唯一、タイ政府から許可された団体として2000年から国境にある7カ所の難民キャンプで21の図書館を設立してきた。メラ難民キャンプではこれまでに4館の図書館を開設し、支援してきた。
教育施設も国境の難民キャンプの中では比較的充実しており、保育園から高校まで46校ある。短大レベルの学校も5校あり、国境にある難民キャンプの「教育の中心」としての機能も担っている。学校には寮も併設されており、質の高い教育を求めてミャンマー国内からやって来るケースもあるという。難民キャンプというより、まるで山の中にある大きな町の様相だ。
人々の約半数は仏教徒で、キリスト教徒が37%、イスラム教徒が12%と続く。寺院や教会、モスクが併設され、民族間や宗教間のトラブルは極めて少ない。外に出ることは原則として禁じられているため、生活は配給に依存し、仕事の機会といえば、NGOに雇われるか、学校の教師になるかに限られている。