ケニア人のお洒落ゴコロに応え活況を呈する美容業界
懐事情とニーズに応じてサービスと価格帯が多様化

  • 2023/8/10

 近年、ケニアで勢いがあるのが、美容業界です。癖の強い髪をまとめて編み上げるドレッドヘアーが流行している様子(2020年2月29日付)や、白い肌に憧れて漂白剤がブームになっている様子(2019年8月20日付)などで現地の美容事情についてたびたび紹介してきた筆者が、今回は美容サロンに潜入しました。低価格帯のサロンが柔軟な発想で顧客の要望に応えることで生み出した新サービスの秘密や、美容サロンという業態の枠を超えて幅広く展開する高級店のこだわりまで、さまざまなサロンに込められた思いから見えてくるケニア社会を紹介します。

母娘3代が通うサロンの意外な経営努力

 ケニア有数のモノづくりの街として知られるカリオバンギ地区の昼下がり、4人の子どもの母親であるアンナ・モマーニさんは、髪の手入れをするために、行きつけのサロンに向かっていた。自宅から100メートルほどのところにある店だ。彼女が子どもだった頃、母親に連れてきてもらって以来、ここに通い続けており、今では自分の娘たちを連れてくるようになった。

 サロンに着くと、アンナさんは慣れた様子で店内に入り、従業員や他の客に挨拶した。予約をしたことは一度もなく、いつでも気軽に来ることができるところが気に入っていると言う。お洒落を楽しむ人々で華やいだ雰囲気の中、席に案内された彼女のもとにスタイリストがやって来て、「今日はどんなスタイルにしようか?」と、にこやかに尋ねた。スタイリストは、形や長さ、色がさまざまなウィッグを彼女の前に並べた後、前回つけたエクステンション(付け髪)を手際よく外し始めた。複数のウィッグを手に取り、じっくり眺めながらアンナさんが選んだのは、長さ36センチほどのブロンドの人毛のウィッグだった。

 「このブロンドの人毛ウィッグの値段は600シリング(約600円)です。しかし、高級サロンに行けば数千シリングは請求されるでしょう。この店では、見栄えのするヘアスタイルを手ごろな価格でお願いできるので、お金を使い過ぎることはありません」と、アンナさんは言う。

カリオバンギにあるジャッキーさんの店の様子。店内はいつも多くの女性で賑わっている(筆者撮影)

 そうこうしていると、店のオーナー、ジャッキー・ムラヤさんが入ってきた。創業して15年あまりのベテラン経営者だ。ビジネスが上手くいかない時にも何とかここまでサロンを続けてこられた秘訣として、ジャッキーさんはアンナさんのような固定客の獲得に成功していることを挙げる。「ビジネスをゼロから立ち上げることは決して簡単ではありませんが、起業するよりビジネスを15年以上続ける方が、さらに大変です。私がやってこれた理由は、常に顧客を維持することができたからです。固定客を獲得して通ってもらえれば、売り上げが安定しますからね」。

 さらにジャッキーさんは、「適正な価格の設定と、新たなサービスを開発するための発想力によって、お店とお客がwin-winになることが大切です」と強調する。開店当初、この店のメニューはヘアーカットが中心だったが、顧客を獲得するために新たなサービスを積極的に取り入れた。常連からの要望が高かったウィッグのサービスもその一つだが、特に注目されるのが、その手法だ。

 高額なウィッグをリーズナブルに顧客に届けるため、この店では、廃品回収業者に50シリング(約50円)を支払い、廃棄物の中からウィッグやエクステンションなどの毛髪製品の回収を依頼しているのだ。集めたウィッグは洗浄用洗剤で丁寧に洗い、殺菌してから販売したり、レンタルしたりすることで、料金を市場価格の10分の1程度に抑えることができている。

ジャッキーさんの店では、ゴミ捨て場から拾いリサイクルしたウィッグを提供することで、価格を抑えている(筆者撮影)

 「もちろん、ゴミ捨て場から拾ってきたと聞けば利用をためらうお客もいるでしょう。でも、これだけ価格を下げられているのには相応の理由がありますし、それを必要としている人々もいるのです。実際、このビジネスは今も成り立っているでしょう?」

 ジャッキーさんは笑顔でこう話し、「高級店と競争するのは難しいので、私はじっくりとお客に寄り添い、彼らに喜ばれるサービスを提供するというビジネスモデルを立ち上げました。この店では今、手頃な価格で、お客が関心を持ってもらえるサービスを提供できています」と、胸を張った。

激化する価格競争の生き残り策

 ジャッキーさんのサロンから数メートル先には、ロージー・マシュさんが営むネイルスパがある。近隣のサロンと協力し合い、厳しい経済状況を乗り切ってきたという。 

 「ジャッキーさんのサロンとは、競合していませんよ。むしろ、共に手を取り合いビジネスできればと思っています。うちのお客が髪の手入れにも興味があるようだったら、彼女のサロンを紹介しているし、逆に、彼女もネイルサービスに興味がありそうなお客にはうちを紹介してくれるよ」と、ロージーさんは話す。

 ロージーさんによれば、近年、安価なサロンでも質の高いサービスが求められる傾向が強まっているという。客はできるだけお金をかけずに、一流のサービスを受けることを望んでおり、その期待に応えられないサロンは、たちまち他店に客を奪われてしまうのだ。

 フリーランスで美容師をしているエスター・オモサさんも、サロンの価格競争の過酷さについて、身をもって感じている一人だ。彼女は約5年にわたり自分のサロンを経営していたが、経営難に陥り、2021年に閉店を余儀なくされた。

 「できる限り長く続けようとあらゆる手を尽くしましたが、救いようのない状況もあります」と、エスターさんは当時を振り返る。

 サロンを閉めた後、彼女はフリーランスで美容サービスを提供している。もともと腕が良いこともあり、あちこちのサロンから声がかかるうえ、個人客の自宅に呼ばれてヘアメイクをすることもしばしばあるという。家賃などのコストを考える必要がなく、サービス料をそのまま利益として受け取ることができるうえ、次から次に予約が入るため、毎日がとても忙しく、充実していると話す。「店を閉めたのは最高の決断でした」と、エスターさんは笑顔で言い切った。

美容サロンの枠を超えた高級店も

 ナイロビではここ10年ほどの間に、富裕層が多く住む地域にサロンが次々と立ち上げられた。外国人駐在員が多い地区に3つの店舗を展開するシーア・サロンも、その一つだ。カリオバンギにある低価格のサロンと違い、店内は終始、落ち着いた雰囲気で、客やスタイリストがひしめき合うことはないうえ、ヘアセットやネイルサービス以外にも、全身のトリートメントを受けられるコースや、さまざまな機器を使って脂肪燃焼を促すコースなど、独自のケアやサービスが用意されている。

 「シーア・サロンが一流である理由は、顧客のニーズや要望に合わせたサービスを心がけているからです」と、アシスタント・マネージャーのエリック・キニュアさんは言う。

シーア・サロンの店内。鏡に正対する席に以外に、写真のようなカジュアルな席も用意されている(筆者撮影)

 このようなサロンでは、通常、飛び込みのお客を受け入れることはなく、事前予約制で厳密に対応している。稀に、リピーターが飛び込みで来店しても、シーア・サロンでは断っているという。ジャッキーさんのお店にあるような気軽さや融通が利くサービスは、ここにはない。

 料金は店舗によって違うが、例えば足のペディキュアはサービス料込みで7000シリング(約7000円)、手のネイルは3000シリング(約3000円)と、ケニアの庶民にとってはかなり高い価格設定だ。

 「料金設定の詳細については説明を避けたいのですが、お客様は私たちのサービスの質を高く評価してくださっているので、私たちのサービスは一人一人のお客様のニーズにお応えしたサービスの提供に努めています。料金はもちろん、私たちのサロンご提供するものはすべて、質の高いサービスを受けることに喜んでお金を払ってくださるお客様のためのものなのです」と、エリックさんは話す。

 一方、外国人向けのラプンツェル・ヘア・アフェアは、「自然派ヘアサロン」を打ち出し、自然な髪のケアをサポートしている。同サロンのスーパーバイザー、マーク・オティエノさんは、店のコンセプトに自信を見せる。

 「髪の毛に不自然なことをしているお客様が多い今こそ、私たちは自然な育毛をお勧めしています。当店ではお客様に最高のサービスしかご提供しないように心がけており、シャンプーなどもロレアルのミザニやオラプレックスといったブランド製品を使っているほか、地毛の成長に合わせて使用できる独自の製品も開発し、発売しています。その分、お値段は張りますが、お客様はそのことをご理解くださっていますし、素晴らしい結果が得られるので、喜んで支払ってくださいます。win-winの関係ですね」

ラプンツェル・ヘア・アフェアでは、独創的なヘアセットも人気だ ©Rapunzel Hair Affair.

 ケニアで有名な高級サロンといえば、フォイナ・ビューティーも見逃せない。同サロンは10年以上の歴史があり、今やケニアで最も有名な高級サロンの一つだ。マネージャーを務めるジョイ・ムワンギさんは、フォイナ・ビューティーがケニアの美容業界にいかに貢献してきたかについて、こう語る。

 「お客様は、私たちのサービスの質の高さを知っています。数年前までネイルはあまり人気がありませんでしたが、最近では、お洒落に敏感なケニア人女性たちはネイルのために何千ドルものお金を使うようになりました。ケニアでここまでネイル文化が普及した背景には、私たちのような高級サロンが新しい流行を発信してきたことが大きく貢献しているのです」

ケニアで最高レベルのネイル施術を行うフォイナのインスタグラム。自らがケニア美容業界に貢献してきた自負がある©Phoina Beauty

 フォイナ・ビューティーの勢いは増すばかりで、美容師の専門学校の経営や、美容商品の開発にも乗り出しており、単なる美容サロンを超えた存在になっている。

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