加速する気候変動、被災国の悲鳴はカギを握る米中に届いているか
トランプ氏が返り咲けば振り出しに戻る可能性も 

  • 2024/3/8

 2023年11月にドバイで開かれた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」について、米国と中国が「タッグを組んで」指導力を発揮した、という見方がある。しかし、その後、両国の担当者はどちらも引退した。さらに、米国では今年、ドナルド・トランプ氏が大統領に返り咲く可能性がささやかれており、そうなった場合、現状とは逆の方針が打ち出されかねない。国際情勢のリーダーシップや、人間社会の事情などお構いなしに加速する気候変動について、各紙の社説はどう論じているのだろうか。

(c) Matt Palmer / Unsplash

キーパーソンを失った二大国、「遺産」は継承されるのか

 シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、2024年1月26日付の社説で、「中国と米国は気候問題においてリーダーシップを継続しなければならない」と主張した。

 社説は、「世界はCOP28で化石燃料からの脱却に向けた合意を成立させた。そのカギを握ったのは、2人の男性だった」と述べ、米国のジョン・ケリー気候変動特別大使(80)と、中国の解振華(シエチェンホワ)気候変動問題担当特使(74)の名を挙げ、次のように述べた。

 「彼らは緊密に協力し合い、2015年にはパリ協定の成立にも寄与した。両氏の友情と強い信頼関係は、しばしば険悪になりがちな気候変動外交において、前進を続ける機動力となってきた」

 しかし、この二人はどちらも会議後に引退した。社説は、両名が残した「遺産」を米中両国の政府が引き継ぐことができるのかが注目されている、と指摘する。中国は、解氏の後任として、気候変動の外交交渉の経験がある外交官を指名した。一方の米国は、ケリー氏の後任をいまだ発表していない。社説は、「逆風はたくさんある。中でも最大のリスクは、バイデン政権の気候政策を覆すことを公約に掲げるトランプ氏が大統領に返り咲くことだろう」と指摘する。だが、気候変動対策は待ったなしだ。社説は、「世界最大の経済大国である米中両国がリスクを乗り越え、協力することが極めて重要だ」と強調している。

「雪のない冬」に募る危機感

 気候変動外交の席上でこうした動きがあった間にも、異常気象は地球と人々に甚大な影響をもたらしている。パキスタンの英字紙ドーンは、シンガポール紙と時期を同じくして2024年1月22日付で「来るべき災害」と題した社説を掲載した。

 社説は、インド領カシミール地方と隣接するパキスタンのラダック地方で最近、雪が降っていないことに触れ、「異常気象と言うしかない。このように雪がない冬は前例がない」と、危機感をあらわにした。パキスタンは、急速な気候変動の影響が最も深刻だと言われる世界10カ国のうちの1つで、その影響は、同国のみならず、広い地域の環境や生活に由々しき影響を与えている。

 中でも深刻なのが、水不足だ。ヒマラヤやカラコルム山脈の氷河が温暖化によって速いペースで「後退」しているためだ。雪解け水が主要な水源であるこの地域において、「冬に雪が降らない」ということは、近い将来、確実に、深刻な水不足が起きることは避けられない。

 「気温が上昇すればするほど、氷河の融解は加速し、氷河を補充する降雪量も少なくなる。氷河が融ければ一時的に水量は増えるものの、それが加速すれば、長期的には水不足が深刻化する」

 パキスタンでは、ほかにも異常気象によって壊滅的な洪水が起きたり、熱波や森林火災に頻繁に見舞われたり、これらが原因で食料不安が起きたりしているという。社説は、「対策を講じなければ、来たるべき災害はさらに悪化するだろう。私たちにはもう一刻の猶予もない」と、警告している。

 危機感も露わに訴えるパキスタンからの警告は、米中にどのように届くだろうか。

 

(原文)

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/us-china-climate-leadership-must-endure

パキスタン:

https://www.dawn.com/news/1807708/the-coming-disaster

 

 

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