電気自動車の世界市場に攻勢をかける中国
シェア争いで始まる新たな貿易戦争 原材料の調達難も

  • 2023/11/9

 近年、世界では中国製の電気自動車(EV)が爆発的に売り上げを伸ばしている。これに対し、欧州連合(EU)は9月半ば、中国製EVの価格が中国政府の補助金によって安く抑えられており、EU製のEVが価格競争で不利になっているとして、調査に乗り出す考えを示した。

(c) Mike Bird / Pexels

中国製EVの席巻に焦るEU、補助金調査の代償は?

 EUのこの姿勢を、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは9月22日付の社説で「保護主義」だと批判。「EUによるこの決定は、中国と欧州の双方に損害を与える貿易戦線を新たに開くことになるだろう」と、予測した。

 欧州における中国製のEVのシェアは、2020年にはわずか1%だったが、2022年には8%まで急速に伸びており、さらに2025年までに15%に上がると予測されている。社説は「中国のEVが欧州のEVにとって代わる可能性は、欧州にとって深刻な脅威だ。なぜなら欧州の経済は、すでにサプライチェーンの混乱とウクライナ戦争の影響を受けて低成長となっているからだ」と、指摘する。

 一方、中国が欧州を追い抜く成長を遂げた要因について、社説はこう分析する。「中国はEVバッテリーの生産に対して、EUよりも早く、かつ、多くの投資を行った。その結果、激化する国内競争の中でEVは低価格化し、世界での優位性を持つに至ったのだ」。言い換えれば、政府による補助金だけが中国製EVの低価格に寄与したわけではない、と主張している。

 実際、中国側はEUのこの決定に対して、「あからさまな保護主義的行為だ」と、批判している。社説は、もし調査の結果に基づいてEUが中国製EVに対して相殺関税をかけることになれば、中国は報復措置に出るだろう、との見方を示す。さらに社説は、「そのような事態になれば、中国製電池に依存しているEUは、逆に損害を受けることになるだろう」と付け加え、EUの決定の危うさを指摘した。

EV用電池のニッケル調達難 インドネシアの国内事情

 EVをめぐる国家戦略について、インドネシアの英字紙ジャカルタポストも、9月13日付紙面で社説を掲載した。こちらはEVの販売をめぐる動向ではなく、EVに使われるリチウムイオン電池の素材である希少金属ニッケルをめぐる論考だ。

 社説によると、インドネシアは世界最大のニッケル生産国であるにもかかわらず、実は輸入国でもあるという。インドネシアのニッケル鉱石の輸入量は、2022年の2万5,000トンから、2023年上半期だけで5万4,000トンに急増している。このほとんどが、世界第2位の生産国であるフィリピンからの輸入だ。

 インドネシアが世界最大の産出国でありながら輸入国に転じた背景には、インドネシア政府の政策がある、と社説は指摘する。インドネシアは、国内産業の発展のためにニッケル鉱石を加工せずに輸出することを禁止する政策を打ち出し、2020年からは全面禁輸とした。この政策は、製錬所に投資を促し、国内需要を高めたという意味では成功したと言えるものの、探査や採掘事業が手薄になり、国内での供給量が不足してしまったという。

 社説は、これまでのように「下流」への手厚い戦略だけでなく、「上流」にも目を向けなければならない、と指摘する。

 「インドネシア政府は、輸出禁止というムチを使い、下流産業の基盤となる製錬施設に対する投資を企業に促した。今度はそのほかの必要な施設を充実させなければならない。その際は、また別の“ニンジン”をぶら下げる必要があるだろう」

 EV産業は、自動車だけでなく、素材や部品、さらには電池やITなどにも広がっている。そのサプライチェーンはグローバルかつ複雑化しており、EVをめぐる国家間の攻防はこれから一層激しくなりそうだ。

 

(原文)

シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/eu-must-avoid-ev-protectionism

インドネシア:https://www.thejakartapost.com/opinion/2023/09/13/nickel-overplaying-our-hand.html

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