職業訓練校がインドネシア社会で果たす大きな役割
求められる人々の意識改革

  • 2019/10/15

アジアの新興国が大きく飛躍するために欠かせないのが、技術労働者だ。技術を持った労働力がなければ、その国に産業は根付かない上、多角化も進まない。しかし、インドネシアの英字紙ジャカルタポストによれば、職業訓練校は「見下されている」という。10月10日付の社説でこう指摘している。

インドネシアでは職業訓練教育に対する偏見が強い (c) Pixabay / Pexels

「トラブルメーカー」という偏見

 社説によれば、インドネシア社会において、職業訓練校の学生たちは「社会のトラブルメーカー」という烙印を押されているという。「近年起きた汚職排除委員会法をめぐる抗議行動から、街で騒ぎを起こす乱暴者とのかかわりまで、ほとんどの人々が、職業訓練校の生徒たちを、他の普通科の高校の生徒たちに比べて問題視している」というのだ。

 実際、彼らの未来は明るくない。職業訓練校の卒業生たちの失業率は、ここ3年で8.63%(2019年)、8.92%(2018年)、9.27%(2017年)と、高い割合で推移している。

 こうした状態について、社説は次のように強く非難する。「職業訓練校生、および卒業生たちの不遇な状況は、2020年から2035年まで人口ボーナスによる大きな利益を受けると言われるこの国で職業訓練校が必ずや果たすであろう重要な役割が無視されているからにほかならない」。そして、「もし、職業訓練教育の社会的な地位と質を向上しないままだと、若い労働力が生み出すはずの富をみすみす逃すことになるだけでなく、2045年までに高所得国の仲間入りをするという国家の目標も達成できないだろう」と、深く憂いている。。

民間セクターを取り込め

 その上で、社説は、「職業訓練教育を軽んじる風潮を変えるためには民間セクターの積極的な協力が必要だ」と指摘し、実際に、いくつかのセクターでは、自ら出資し、自分たちの専門分野を教える職業訓練校を設立したり、生徒たちにインターンシップの機会を提供したりする動きが始まっていると紹介している。インドネシア教育文化省も、商工会議所と連携協定を結び、職業訓練教育の質の向上に取り組み始め、国内に1万4,000校ある職業訓練校のうち、2024年までに5,000校の質を改善することを最優先事項の一つに掲げているという。

 民間セクターが職業訓練教育に積極的に関与することにより、産業側は、業務上、必要な技術者を育成でき、生徒側は、就職につながる実践的な教育を受けることができる。また、職業訓練教育の6~7割の時間をインターンとして実務に携わりながら学ぶ機会に充てることで、学生たちは卒業後、即戦力として活躍できる。「民間セクターを巻き込んでこうした好循環が生まれれば、インドネシア経済の発展にもつながる」と、社説は期待する。

 「改革の取り組みは少し遅いかもしれない。けれど、何もしないよりはマシだ」と、社説は指摘し、近隣国に学ぶべきだと訴える。「ベトナムやタイでは、迅速な産業育成が実現した。インドネシアもこうした事例に学ばなければ、他の東南アジア諸国から取り残されてしまう」。

 さらに社説は、職業訓練教育を現在の3年制から4年制にし、職業訓練校を今よりもっと即戦力として活躍できる人材の育成の場とすることも提案する。

 その上で、社説は最後にもう一つの「壁」も撤廃すべきだと指摘する。職業訓練校に対する社会の偏見という壁だ。「生徒の両親や生徒自身が職業訓練校を納得できる選択肢の一つ―最善とまではいかなくても―として検討できるようになることが必要だ」として、人々の意識改革を求めている。

(原文:https://www.thejakartapost.com/academia/2019/10/10/big-role-for-vocational-schools.html)

 

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