【イベント報告】コロナと途上国、日本の役割を考えるZoomセミナーが緊急開催
収束の見込みや今後の国際協力を議論、約300人がライブで視聴

  • 2020/5/30

「鎖国」できない感染症問題

 続く第2部では、「現状と今後の見通し」「日本の役割」「国際協力の行方」の3つのテーマについてディスカッションが行われた。コーディネーターは、ドットワールド編集長の玉懸光枝が務めた。

「今後の見通し」

 まず、「今後の見通し」については、(1)貧困層やインフォーマルセクターに従事している社会的弱者にどう情報を届けるか、(2)現場に入れない中、支援ニーズをどう把握するか、(3)ワクチンの開発状況と収束の見込み、の3点について議論が交わされた。

藤田綾氏

 このうち(1)については、青木氏が「チリはテレビをはじめメディアが発達し、保健省からも分かりやすい情報が発信されているため、手洗いなど公衆衛生に関する情報はきちんと伝達されている」とした上で、「不正確な噂や不安をあおるフェイクニュースが増えている」という問題を指摘。続いて、藤田氏がウガンダの難民居住地について「携帯電話やラジオを持っているのは現金収入のある男性に限られ、孤児や高齢者、家事負担の大きい女性は、経済的弱者であると同時に情報弱者でもある」「難民のリーダーを通じてすべての人に情報を伝える支援を検討中」などと述べた。

 (2)については、中村氏が「支援が届いていない地域や声が上げにくい人々ほどニーズの把握が困難であるからこそ、簡易調査を通じて吸い上げを試みている」、石原氏が「レソトはメディアが弱く、携帯電話の所有も限られているため、ビレッジヘルスワーカーが情報伝達やニーズの吸い上げに大きな役割を果たしている」などと指摘した。

中村俊裕氏

 また(3)については、國井氏が「世界中の研究者や企業が連携してワクチン開発が進められているが、これまで開発されたワクチンはいずれも最短4年を要している」「治療薬の候補もいくつかあるが、死亡率をどれぐらい低減できるかは未知数」「診断率は精度の向上が必要」とした上で、「診断、治療、予防の3つの武器をいかに使うかが重要」「集団免疫がつくかどうかも分かっていない。アジアやヨーロッパからアフリカや中南米に広がっている感染を早めに抑え込まなければ、日本や中国、韓国で第2波、第3波が起きるだろう」と、厳しい見方を示した。さらに、千葉氏の妻で、ピースウィンズジャパンに所属しケニアで難民支援に従事している千葉暁子氏も飛び入り参加し、「ケニアでもコミュニティベースのヘルスボランティアなど難民がフロントラインとなって情報共有や衛生啓発を行い、行動変容が起きつつある」と紹介した。

「日本の役割」

 2つ目の「日本の役割」では、(1)日本が前向きになる条件、(2)民間セクターの可能性、の2点について意見交換が行われた。

山内康一氏

 このうち(1)については、衆議院議員の山内康一氏が「日本政府は新型コロナウイルス対策のために一次補正予算で840億円の政府開発援助(ODA)予算を組み、積極的な姿勢を見せている」とした上で、「外務省は国際機関への拠出に積極的ではないが、今回は顔の見える二国間援助にこだわらず、感染症関連のファンドに思い切って資金を投入すべき」「これまで以上に途上国の公的な医療機関や医療関係者の教育機関への支援が重要になる」との考えを示した。また同氏は、ここ30年ほど各種世論調査でODAに厳しい目が注がれ、予算の減額が続いていることに触れ、「感染症は日本一国が鎖国してすむ問題ではない。ODA、特に感染症対策は日本の利益にもなることを国民に知ってもらう必要がある」「コロナ対策で日本のプレゼンスを示すことが、日本の外交力やソフトパワーにもつながる」とも述べた。

 (2)については、中村氏が「現在、日本のODAの年間予算額は約1兆5,000億円。コロナ対策のためにODA以外から約1兆円が拠出されていることを考えると、民間セクターの金銭的な役割は大きい」「民間のソリューションも期待されており、国連機関がハッカソン形式でコロナ対策のアイデアを募り始めた」などと述べた。

「国際協力の行方」

 3つ目の「国際協力の行方」については、まず石原氏が「財源をどう確保するかと同時に、どう使途していくかも重要」とした上で、「レソトのように中進国の中でもキャパシティが高くない国の場合、資金が入ってきてもファイナンシャルマネジメントや調達の面で問題があり、現場に迅速に届かないという問題がある」との見方を示した。

石原陽一郎氏

 続いて國井氏が、「今回、シンガポールや台湾をはじめ、SARSやMARSの経験を有するアジアとヨーロッパでは、対応に大きな違いがあった」と振り返った上で、「新たなパンデミックに備えるためには、中央レベル、自治体、市町村を挙げて今回の問題を検証するとともに、物品、リスクマネジメント、コミュニケーションについて細かく計画を立て、シミュレーションする必要がある」「防護具(PPE)の有無で院内感染の状況は大きく違う。企業と自治体がスタンバイアグリーメントを交わし、緊急時には迅速に物品を国内調達できる体制を今のうちに構築すべき」「専門家も交えた産民官の連携メカニズムも必要」と指摘。さらに、「病気ごとに縦割で対策を考える方が効率的だが、資源が小さい国に対しては、組織を超えて対策の統合を考えるべき」「地域の健康問題や差別、教育の問題を考えつつ、“病気を見るのではなく人を看る”姿勢で支援していくべき」だと訴えた。

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