太平洋島嶼国で深刻化するプラごみ問題
海をめぐって顕在化する先進国と途上国の3つの対立点

  • 2023/8/22

 近年、太平洋島嶼国を舞台に顕在化しつつある先進国と途上国の対立点が3つある。第一に、早ければ8月24日より開始が予定されている福島第一原子力発電所の処理水の放出だ。汚染水を処理した後に残る放射性物質トリチウムが含まれていることについて、島嶼国の人々のほとんどは科学的な安全性を頭では理解しながらも、感情的に「なぜ先進国の失敗のツケを自分たちが負わされるのか」と割り切れない思いを抱えている。

 第二に、海面上昇の問題だ。因果関係は証明されていないものの、ツバルやキリバスなど、一部の島嶼国が水没の危機にさらされているのは、先進国が排出した二酸化炭素によって地球の温暖化が進み、極地の氷が溶け出して海水面を上昇・膨張させているためだという説があり、ここにも悪感情がある。

 そして第三に、先進国から漂着するプラスチックごみや、輸入食品の包装材による汚染の深刻化だ。この問題については、先進国に規制を求める声が高まっている一方、島嶼国の住民も問題に加担している側面がある。島の人々の議論を追った。

地球温暖化に起因すると言われている海水面の上昇によって、国土が水没する危機に直面している南太平洋の島嶼国、ツバル。同国はプラごみ問題とも闘っており、サイモン・コフェ外務大臣は膝まで水につかりながら国際社会に向けて対策を訴えた© Popular Science /twitter

ライフサイクルの下流で処理能力を超過

 プラごみ問題に苦しんでいる島国の一つ、キリバスについて考えてみよう。

 太平洋中部に位置する同国は33の環礁から成り、総面積は811平方キロメートルと、対馬よりも少し大きい。赤道付近の東西350万平方キロメートルに広がる国土の一部は、太平洋戦争時代に日米の激戦地となった。人口は約2万人で、ミクロネシア系住民が多い。

 1892年にイギリス保護領となった後、1979年に独立した同国は、植民地時代に産出した肥料向けリン鉱石の売上を積み立てて運用される基金からの収入のほか、広大な排他的経済水域(EEZ)を活用した外国漁船からの入漁料やコプラなどの農産物、そして観光業によって経済を維持している。

キリバスの若者たち。彼らは、悪化するプラごみ問題に直面している世代だ。© AYCC Queensland / twitter

 キリバスは太平洋島嶼国の中でも最貧国に分類されており、一人当たりの国内総生産(GDP)は2021年時点で1600ドル(約23万2665円)程度にとどまる。しかし、廃棄物処理能力が低い同国では、ごみの総量の13%を占めると見られるプラスチックを処理できず、日に9.7トンが埋立地に運ばれている。

 環境省の危険物・化学物質管理局で上席責任者を務めるテエマ・ビコ氏は、「わが国は他の島嶼国と同様、プラスチックを生産していないにも関わらず、プラスチックのライフサイクルの下流に位置している。離島であり、プラスチックをリサイクルするために輸出するのもコストがかかるうえ、国土が狭く、廃棄物処理施設の新設も困難だ。海岸に漂着するプラごみを処理するコストも負担が大きい」と、窮状を訴えた。

 キリバスは、12の太平洋島嶼国が結成した「世界プラスチック条約(INC)太平洋交渉委員会」に加盟している。ビコ氏は「プラスチック汚染は国境を越えた問題。野心的かつ包括的な国際条約によってプラスチック製品のライフサイクルを規制すべきだ。環境や人体を害さないプラごみの安全管理を推進し、循環経済も確立すべきだ」と、主張する。

 そのうえで同氏は、「プラスチック条約が実効性をもったものになるためには、上流で強制力を伴う措置を盛り込むことが必要だ」と強調した。先進国や新興国でプラスチックの生産や使用の制限に踏み込まなければ、下流にある島国がごみの島になるという訴えだ。

 とはいえ、島の住民が日々、消費している輸入品にもプラスチックが使われているため、彼らがごみを生み出しているという側面も否定できない。これを問題視したキリバス政府は、使い捨てのポリ袋やおむつを禁止するなどして国民の意識改革を進めている。

 他方、キリバスの南に位置し、イギリス植民地時代には同じ行政区だったポリネシア系のツバルは、人口約1万1000人、国土はわずか26平方キロメートルであるにも関わらず、およそ4万5000平方メートルがごみの埋立地となっており、今後、さらに拡大することが予想されている。

澄み渡るツバルの海岸の水。だが、実際にはプラごみ問題が深刻化している © Timeless Tuvalu

 これを受け、ツバル政府の廃棄物局は、飲料用のペットボトルを1本あたり5セントで買い取って首都があるフナフティ島の工場で粉砕し、リサイクル用材料として輸出したい考えだ。同局スタッフのサイタラ・パウロ氏は、「島嶼国は海水面上昇などの環境問題にさらされているうえ、積み上がるプラごみを国内で処理する施設もなく、ペットボトルを粉砕しても買い取り先が足りない。つまり、われわれだけでは手に負えない問題だ」と、危機感をあらわに述べる

 ツバルは2020年、ポリ袋のほか、1.5リットル以下のペットボトル、プラスチック食器、ストロー、カップ、持ち帰り容器、食品保存用ラップ、テーブルクロス、プラスチックの旗まで、全9種類の使用を禁じた。しかしパウロ氏は、「これは解決できないジレンマだ。われわれがプラスチックの容器に入った食品の輸入を続ければ、埋立地はすぐにあふれてしまうだろう。しかしツバルの国土は狭く、食糧の耕作力も限られており、プラスチック容器に入った食品の輸入はやめるわけにいかない」と嘆く。

 ツバルも、キリバス同じように「国際プラスチック条約」の合意と成立を推進する運動を展開している。上流に位置するプラスチックの生産や使用が減れば、島嶼国に入ってくるプラスチックも削減されるという考えだ。

食物汚染をもたらすマイクロプラスチック

 先進国や新興国の人々の多くは、プラスチック汚染を直接、目のあたりにしない都市部に住んでいる。しかし、国土が小さい島国に住む人々にとって、その影響はより身近だ。例えば、ニュージーランドの北東、トンガの東、サモアの南東の南太平洋上に位置するニウエは、人口約1700人の小国ながら、他国から漂着するプラごみに悩まされている。

 同国の環境省に勤務するヘイデン・タラギ氏は、「われわれはプラごみ問題から逃れることはできない。そのインパクトはグローバルであり、緊急性もグローバルだ。われわれが共有する責任もまた、グローバルなのだ。だから、世界にわれわれ島嶼国の声を傾聴してほしい」と訴える

プラごみは簡単に分解しないだけでなく、細かな粒子のマイクロプラスチックとなって魚やそれを食べる人間を汚染し続ける。© Pexels

 ニュージーランドのマッセイ大学で環境計画の教鞭を執るトリシア・ファレリー准教授は、「太平洋に流出した使用済みプラスチックは、粒子や分子レベルに砕かれ、水や土壌、魚や動物、そして人間を汚染する有毒化学物質になる」と、警鐘を鳴らす。

 漁業は太平洋島嶼国にとって生活の糧であるだけでなく、人々にとって栄養源でもある。フィジーのシティベニ・ランブカ首相兼外務大臣は、「ある研究によれば、特に危険だと言われている直径5mm以下のマイクロプラスチックが、わが国の近海で獲れる魚の68%に含有されているという。また、海洋を浮遊するプラスチックを誤って口にしたカメやクジラ、海鳥が死ぬケースも報告されている」と、語る

 ツバルの南に位置し、300以上の島々から成るフィジーは、人口約95万人と、島嶼国の中では比較的大きな国である。ごみ処理問題は人口規模に比例して大きくなるため、ごみのポイ捨てや不法投棄の問題に苦慮しているという。

 そんな同国も「国際プラスチック条約」の成立に向け、その推進に力を入れている。輸入物資に使われているプラスチック量を減らせれば国内のごみや食物汚染も削減できるだろうという思惑だ。

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