ウクライナ危機が生み出す世界の「新無秩序」
マレーシア、ネパール、バングラデシュの社説から
- 2022/3/4
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米諸国を中心とした経済制裁の強化と並行して停戦協議が行われている一方で、戦闘は続いている。アジア各紙もウクライナ危機の動向を注目しており、社説では「国際社会がどうあるべきか」を論じるものが目立つ。
ボーダレスの世界に生まれた亀裂
ウクライナ戦争を生み出した世界を「新無秩序」と呼ぶのは、マレーシアの2月28日付けのニューストレイツ・タイムズの社説だ。
(https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/02/775371/nst-leader-unbearable-weight-war)
社説は、「ウクライナ情勢が世界に与える影響は、ウクライナ国内にとどまらない」として、経済的、および地政学的に大きな影響を与えるとの見方を示す。さらに、「これまでボーダレスだった世界に、再び、ボーダーが生まれている。新型コロナの感染拡大によってグローバリゼーションは打撃を受けたが、ロシアの孤立は、みぞおちに打撃を与えるかのごとく、痛烈な一撃となるだろう」と、指摘した。
「大国は、追い詰められると、仲間を作ろうとする。今回のウクライナ危機で大変興味深いのは、ロシアをまるで抱きしめるかのような中国の動きだ。中国やロシアのような巨大な国同士が仲間になると、地政学的な変動が起きる。覇権主義的な古い世界秩序が新しくなろうとしているのだ。しかし、新たな秩序がより良いものだとは限らない。まさに、今起きているのは、世界の新無秩序というものだ」
「現代社会に真っ向から反する行為」
ネパールの英字紙「カトマンドゥポスト」は、2月25日付けの社説で、ウクライナを侵攻したロシアのプーチン大統領を「血に飢えているかのような、現代社会の基本原則に真っ向から反する行為だ」と、厳しい言葉で批判する。
(https://kathmandupost.com/editorial/2022/02/24/barbarians-at-the-gate)
「地域の大国の指導者には、他国の平和を維持する責任がある。しかし、プーチン大統領は全く逆のことをした。各国のリーダーは、なんらかの方法で、この弱者への暴力を効果的に抑えなければならない。好戦的な人々は孤立し、世界の片隅に追いやられるべきだ。国々の平和的な共存こそが推進すべき道であり、戦争や、闘いへの欲求は世界史の薄汚い片隅へと捨て去るべきだ」
事態を真剣にとらえなかった西側諸国
バングラデシュの英字紙「デイリースター」も、2月25日付けの社説でウクライナの人々に連帯を示した上で、「ロシアの侵攻を非難する」と強調した。しかし、それと同時に、「欧米諸国側にも、こうした事態を招いた責任がないわけではない」と、指摘する。
(https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/russias-aggression-must-be-stopped-2970456)
社説は、「ロシアはこれまで、北大西洋条約機構(NATO)が1999年と2008年に段階的に拡大した時に受け入れてきたが、どちらの時にも、ジョージアとウクライナをNATOに加盟させることには我慢がならない、と明確に訴えていた。それでも西側諸国は、ロシアの主張を真剣にとらえなかったのだ。もしも米国であったら、自国の国境の近くに反米勢力の軍事同盟があることを受け入れただろうか。その可能性はかなり低いだろう。ロシアも同じで、受け入れることはできなかったのだ」
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ウクライナ危機は、プーチン大統領の野望だけの理由で、突然、起きた出来事なのだろうか。バングラデシュのデイリースター紙が指摘するように、その「芽」は何年も前から生まれていたか、巨大なプレートのひずみによって起きる地震のように、長い時間をかけて大きくなった国際社会の歪みが動いたようにも思われる。マレーシアのニュー・ストレイツタイムズ紙が危惧する「世界新無秩序」に陥らないためには、それぞれの国が世界の在り方を考え、共存への道を探る必要があることは、言うまでもない。