「勝てば炭、負ければ灰」 勝者なきウクライナ紛争
- 2024/3/30
ロシアがウクライナに軍事侵攻して2年以上が経過した。戦争は人命のみならず、経済や社会の様々な側面に大きな損害をもたらしているにもかかわらず、終結の兆しすら見えていない。

2024年3月2日夜、ロシアによるオデサ市の攻撃後に9階建て住宅の瓦礫を撤去する作業員たち。子ども5人を含む12人が死亡し、8人が負傷した。 (Wikimedia Commons/State Emergency Service of Ukraine)
大国から「侵略」される危機感 東南アジアにも
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは2月29日付の社説でこの問題をとりあげた。
社説は冒頭で、「勝てば炭、負ければ灰」ということわざを引用した。これは「戦いに勝っても負けても、失うものは大きく、結果に大差はない」ということだという。社説は「侵略する側もされる側も、大きな被害を受ける。結局、この戦争に本当の勝者はいない」と説く。
さらに、東南アジアの大国であるインドネシアは、視点を足元に転じ、「侵略」については東南アジア諸国連合(ASEAN)も学ぶべきことがある、と説く。それは、領土保全に関して決して他国に依存してはならない、という警告だ。
「ASEAN加盟国の多くは、この地域で支配力を急速に強めている中国への安全保障と防衛をいまだに米国に頼っている」と、社説は指摘する。さらに、「中国とは南シナ海で領有権を争いながらも、経済的には中国に依存している」とも指摘。地域の安全保障がアメリカと中国との覇権争いに左右される現状に、警鐘を鳴らした。
侵略を受けたウクライナは、西側諸国への支援の呼びかけを続けている。しかしインドネシア紙は、「プーチン大統領は今、欧米のウクライナ支援が衰えるのを待っているようだ」と見る。さらに、きたる11月のアメリカ大統領選で、仮に「プーチンを崇拝している」とも言われるトランプ氏が勝利すれば、「ウクライナにとっては悪夢だ」とも指摘。欧州連合による調査結果を引用し、欧州人はウクライナを支持しているものの、ウクライナがロシアに勝てると考えている人は10%にも満たなかったと紹介する。
「ウクライナで起きていることは、どの国にも起こり得る。主権を持ち、自由であることは、かけがえのない大切なことであると、ウクライナ侵攻は教えてくれた。同盟国でさえ、私たちを守ることはできない。最後には、自分たち自身しかいないのだ」
インドに飛び火する戦争の被害
ウクライナ紛争の被害について別の視点から指摘するのは、インドの英字メディア、タイムズオブインディアだ。「あなたの仕事、あなたの人生」と題した2月23日付の社説は、「だまされてロシアの傭兵組織ワグナーと契約した4人のインド人が、戦争の最前線に立たされ、インド政府にSOSを送った」という事件について書いている。
社説によると、4人はロシアで軍隊の警備補助員として働く契約にサインした。インドで海外に働きに出ることは珍しいことではない。社説も、「世界的に見て、インド人は最大の国際移住者であり、最大の国際送金の受け取り国である」としている。
したがって、今回のことも、「問題は海外就労にあるのではない」と言い切ったうえで、そこに搾取や詐欺のメカニズムが存在することが問題なのだと訴える。社説は、搾取を防ぐ方法の一つとして、採用時に一定の監視を確保する必要性を訴えた。また、「搾取されるような海外就労を選ばずに済むように、国内の雇用環境を整えることも重要だ」と主張している。
前回、傭兵としてロシア軍に参加するネパールの若者をめぐる社説を紹介した。今回のインド人の場合は、「だまされて」前線に連れてこられたケースではあるが、いずれにしても、戦場というブラックボックスの存在が、当事国のみならず、他国民を思わぬ形で巻き込んでいることには変わりない。そしてここにも、「勝者」はいない。
(原文)
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/your-job-your-life/
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/02/29/nobody-wins-ukraine-war.html