デジタル・デバイドとネパールの義務教育
コロナ危機があぶり出した格差を埋めるのは誰か

  • 2020/5/31

 新型コロナウイルスの感染が今も拡大し続けているネパール。国内の感染者は5月30日までに1,401人となり、1日で100人以上の新規感染者が確認される日が続いている。この状態を受け、ネパール政府は都市封鎖を6月14日まで延期することを決定するとともに、国際線も6月30日まで受け入れ停止を決めた。そうした中、5月30日付のカトマンズ・ポスト紙は、教育の問題をとりあげている。

ネパールではコロナ禍を機に教育格差が深刻化している (c)Terry Boynton / Unsplash

学校間の財源力の違いが浮き彫りに

 社説はまず、いまだ「出口」の見えないコロナ危機について、「新型コロナウイルスのもたらした危機は広く、深くなり、すべての人にとって良い解決策を考えることは難しくなっている。現在は経済成長率がわずか2%強という状況で、都市封鎖がこれ以上続けば経済予測はさらに悪化するだろう。かといって、拙速な封鎖の解除は高い代償を払うことになる。社会のさまざまなセクターが、それぞれにイノベーティブな解決策を見出さなければならないときだ」と、指摘する。

 なかでも「大きな負担を背負う」と指摘されている分野が、教育だ。教育者たちは世界各国でウイルスの脅威とたたかいながら、子どもたちが孤立する時間が長期化する状況とのたたかいも強いられている。それによりいくつもの問題が生まれている、ネパールの場合はとくに教育インフラの「格差」が深刻化している、と社説は指摘する。

 「学校や大学は2カ月にわたって閉鎖されている。一見、すべての子どもたちや若者が等しく影響を受けたかのように思われるが、各教育機関の対応には大きな格差があるのが実態だ。豊かな財源を有する私立学校は、デジタル学習のシステムを整え、バーチャル教室を再現できた一方、そうした余裕のない学校がほとんどだ。ネパールでは、安定した高速のインターネットを利用できない人が多い上、そもそもオンラインの情報を受信するためのデバイス自体を持っていない人も多い」

政府の義務と民間投資 

 不公平さが募る中で、K.P.シャマル・オリ首相はこのほど「オンライン教育を推進する」と発言したという。社説は首相のこの発言について、「教育機関が閉鎖されちる今日の状況を鑑みれば、教育のオンライン化はさほど驚くべき発言ではない」とした上で、首相は子どもたちの多くがそもそもインターネットにアクセスさえできない状況だという事実を完全に忘れており、「あまりに実現可能性のない、実態とかけ離れた政策」だと非難する。

 社説が批判する論点はもう一つある。首相が政府主導で教育セクターの強化に乗り出すのではなく、民間セクターからの投資を推進すると発表した点だ。社説は、首相が教育インフラの整備を民間に任せ、政府の責任を放棄するつもりだととらえたようだ。「政府の計画は実態を踏まえていない。憲法第30条2項で、すべての国民が無償で義務教育を受ける権利を有すると定められているということは、いかに費用がかかろうと義務教育を全国民に届けるのは国家の責任ということだ」「民間のイノベーティブな技術の導入に異論はないが、民間セクターの参入によって教育コストが高くなることを懸念する声もある」

 また社説は、オンライン教育を推進するより前に、即効力のある代替システムの構築が必要だと主張する。実際、地方政府の中には、教師らがボランティアで週に数回、子どもたちの家を訪問したり、コミュニティ内で小さなグループをつくったりして学習を続ける方法も模索されているという。「こうした方法の効果は今後、検討しなければならないが、オンライン学習を推進するよりははるかに現実的だ」「長期的に見れば、政府はゆくゆく教育に投入する予算を増やさなければならないだろう。都市封鎖は、教育システムを見直すよい機会になるはずだ」

 政府か民間かを問わず、子どもたちの教育機会を確保できれば良いようにも思われるが、社説の力点は、政府が教育の拡充に必ずしも熱意を持っていないように思われる点にあるようだ。社説は、「2015年に発生した地震により7,553校の教育機関が被害を受けたが、まだ26%しか復興できていない。全国に約2万校ある公立学校のうち、基礎インフラが整備されているのは8,000校に過ぎない」と、指摘する。その数字を踏まえると、政府が安易に民間に依存しようとしているのではないかと危惧する社説の懸念も理解できる。

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2020/05/27/the-digital-divide)

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