人口が増えた国、減った国 アジア各国の苦悩
少子高齢化が止まらない先進国と人口増に悩む途上国

  • 2023/8/29

 7月11日は国連が定める「世界人口デー」だった。国連人口基金によると、世界の人口は2022年11月、ついに80億人を突破。2023年半ばの国別推計ではインドが中国を抜いて14億2860万人を上回り、世界最大の人口を抱える国となった。2058年には世界人口は100億人に達すると予測されている。しかし、すべての国で人口が増えるわけではなく、国によってさまざまな悩みがありそうだ。

(c) Ryoji Iwata / Unsplash

消えゆくシンガポール人
 7月6日付のシンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、「消えるシンガポール人の悲劇」と題した社説を掲載した。
 社説は、自国の人口の現状を「高齢化と出生率低下を組み合わせると、人口減少という完璧なレシピが完成する」と表現し、この傾向はますます強まっている、と憂う。
 というのも、シンガポールの出生率は2022年に過去最低を記録。同時に過去最多の年間死亡者数を記録したという。また、65歳以上の人口は2012年の11.1%から、2022年には18.4%へと急増した。社説によると、「2030年には国民の4人に1人が65歳以上になる」という。
 とはいえ、人々が長生きするということは歓迎すべきことだ。社説も「栄養状態が良くなり、衛生状態が改善され、医療が改善され、国民の生活の質は非常に良くなった。シンガポール人はこれを誇りに思うだろう」と評価する。一方で、「心を痛めるのは出生率の低下」だと指摘。少子化がもたらす悲劇について、「高齢者が高齢化社会で暮らすことができない」と表現した。

途上国の人口増 進まぬ家族計画
 一方、世界で5番目に多い2億4050万人の人口を抱えるのは、パキスタンだ。同国の英字紙ドーンは、7月11日付の社説で、「世界が人口デーを迎える今日、人類は奇妙なジレンマに直面している」と指摘した。「奇妙なジレンマ」とは、日本や欧米など多くの先進国で少子高齢化によって人口が減少する一方、パキスタンのような「資源の乏しい開発途上国」では、人口増加率が依然として高い現状を指した言葉だ。社説は、「パキスタンは増え続ける人口を養い、教育し、健康を維持しなければならないという大きな課題に直面している」と指摘する。
 しかし、問題はそれだけではない。社説は、「人口増加の影で望まない妊娠や中絶の数が数百万件に上っている」と指摘し、家族計画の重要性に言及。「政府は、人口をコントロールするという国家の義務を国民に強制するのではなく、家族、なかでも女性が理想的な数の子どもを生むことができるように、必要な情報や手段を与えなければならない」と主張した。
 とはいえ、イスラム教の国、パキスタンで家族計画を推進することは、果たして現実的だろうか。社説はこう説く。「家族計画を推進するためには、宗教者や地域社会のリーダーを巻き込むことが不可欠だ。イラン、サウジアラビア、バングラデシュなどで人口増加のスピードが抑えられているのを見れば、家族計画が宗教的規範に反するという考えを打ち消すことは容易なはずだ」

 シンガポールとパキスタン。同じ「グローバルサウス」に属すると思われる国々でも、人口政策は全く逆のベクトルに向かう。ただ、どちらにとっても、視点を変える必要があるのは共通している。人口推移は極めて確実性が高く、現在の未来予測が反転する可能性はほとんどないと言われる。国家も国民も、突きつけられている現実を見つめ、変わりゆく各国の状況に応じて、新たな未来像を描く努力をするべきだろう。

 

(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/recession-dodged-but-risks-abound

パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1764111/population-day

 

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