打開策なきウクライナ情勢 穀物価格はさらに高騰か
国際社会は外交的な解決策を探り続けよ

  • 2023/8/25

 ロシアは7月17日、黒海を経由するウクライナ産穀物の輸出に関する合意から離脱することを発表した。この合意は、ロシアによる侵略の影響で止まったウクライナ産穀物の輸出再開を目的として、2022年7月にトルコと国連の仲介で成立した。しかしロシアは、西側諸国からの制裁緩和が実施されていないことを理由に、合意から離脱するとしている。

(c) Julian Andres Carmona Serrato / Unsplash

ウクライナ産穀物の供給減 しわ寄せは途上国へ

 ウクライナ産穀物の輸出停滞を受けて、食料価格は世界的に高騰し、人々の暮らしを圧迫している。なかでも最も深刻な影響を受けるのは、アジアやアフリカの開発途上国だ。

 ウクライナ産小麦の輸入量が三番目に多いバングラデシュにとっても、今回のロシアの合意離脱は深刻な問題だ。同国の英字紙デイリースターは7月17日付の紙面に、「黒海における穀物取引を維持せよ」と題した社説を掲載した。

 社説は、ロシアが合意を離脱することによって、「世界の食料供給、特に、穀物を輸入に依存している国々に深刻な影響を与える。ロシアがウクライナに侵攻するまで3年間、世界で取引された小麦の約1割、そしてトウモロコシの15%はウクライナ産だった」と指摘し、影響の大きさを懸念した。

 ただ、社説は一方的にロシアを非難しているのではない。「ロシアは合意を離脱する理由として、食料と肥料の輸出を促進するための約束が履行されていないことを挙げている。ロシア政府によれば、西側諸国の対ロシア制裁は、食料と肥料の輸出には適用されないものの、支払いや物流、保険に関する制限などによって、間接的に出荷が妨げられているというのだ。ロシアの抱える問題も理解できる。」

 そのうえで社説は、「しかし、ロシアは大局を見なくてはならない」と主張する。「人道的な見地から、また世界的な地位を守るためにも、ロシアは合意離脱を見直すべきだ。同時に、我々は国連に対してロシアの要求に応える方法を模索するよう求める」とバングラデシュの立場を表明している。

NATO首脳会議、具体的成果は見えず

 他方、時を同じくして、リトアニアでは北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が開かれていた。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは7月18日、「NATOサミット、複雑な結果」と題した社説を掲載した。

 社説はこんな文章で始まる。「おそらく今回の会議は、何が達成されたかと同じくらい、何が達成されなかったかで記憶されるだろう。」

 会議では、フィンランドが加盟国として承認されたが、ウクライナの加盟については明確な道筋が示されなかった。また、懸案となっているNATOの東京連絡事務所開設も棚上げとなった。

 社説は、「ウクライナ情勢に対するNATOの警戒心は理解できる。ロシアとの戦争中にウクライナを加盟させることによってNATOが紛争に巻き込まれ、予測不可能な、そしておそらくは破滅的な結果をもたらすことを恐れたのだ」と述べる。ただ、これはNATO側にとって賢明な判断であっても、結果として紛争を長引かせるものであり、ウクライナ情勢を改善する判断にはならなかった、と批評する。

 東京連絡事務所については、フランスの反対によって見送られた。社説は「欧州・大西洋と、アジア太平洋という2つの戦略的領域を半公式的に結び付け、ロシアのみならず中国の領土的野心をも封じ込めることになる」と指摘し、東京連絡事務所の開設には大きな意義があったはずだ、と述べる。

 最後に社説は、ロシアによるウクライナ侵攻の外交的教訓として、こう述べている。

 「紛争を止めることができずに開戦に至っても、外交的な解決策を模索し続けることが重要だ。ウクライナで流された血は、結局のところ、外交が両国の要請に応えられなかった結果なのだ。こうしたことは、アジアでは決して起こしてはならない。」

 

(原文)

バングラデシュ:

https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/black-sea-grain-deal-must-be-upheld-3379936

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/mixed-outcomes-from-nato-summit

 

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