バイデン次期米大統領の対外援助政策を読む
「米国による平和」の復活なるか
- 2020/12/14
また、米国は今後、中国や日本などG20の国々にも、最貧国向けの支援をのぞき石炭を消費する事業に融資しないよう求めてくると見られる。地球環境に優しい開発事業に取り組む国に対し、政府負債を減免することで間接的にクリーンなエネルギーを世界的に普及させるべく後押ししたいというのが、バイデン次期政権の考えだ。コロナ禍による経済低迷で多くの国の負債返済に懸念が生じる中、注目される案だと言えよう。
コロナ制圧と女性の地位向上
また、自然的、偶発的または意図的な生物学的脅威からのリスクを、積極的かつ効果的に予防、対応、回復、低減するための「国家バイオディフェンス戦略」も、バイデン次期大統領の対外援助政策の特徴だ。具体的には、トランプ政権が2018年に国家安全保障会議の内部組織で廃止した「バイオディフェンスおよびグローバルヘルス安全保障本部」を復活させ、国務省や国際開発庁を通じて途上国向けにコロナワクチンを安価で提供することを対外援助の柱に据える。
これについて、テキサス州選出で、米議会の下院外交委員会メンバーを務める民主党のホアキン・カストロ下院議員は、「米国が開発したコロナワクチンを対外援助に含めることは、米国が世界で主導的な役割を取り戻す一歩になる」と語っている。秋口から始まったコロナ感染者の再増加傾向を受けて世界各国でまたも緊急性が増している課題に、米国が積極関与できるチャンスだとバイデン次期大統領は考えているというわけだ。
これに関連し、トランプ政権が引き上げた世界保健機関(WHO)の分担金を復活し、米国の対外ワクチン援助との連動を図ることも予想される。ハーバード大学で国際医療システムを教えるリファット・アトゥン教授は、「WHOと米国の関係は完全にコロナ禍にからめて、難民などに対する医療・人道援助を増額し、コロナ制圧を目指す可能性もある。
さらに、トランプ政権下では重要課題とみなされなかった女性の経済的、社会的な地位向上に向けた支援にも注力する考えだと言われている。具体的には、途上国の各セクターを率いる女性リーダーの育成や、女性事業家に対する融資の拡大、女子教育への投資、性暴力対策などを通じ、国内のジェンダー問題と連動する形で対外支援が展開されることになるだろう。
国境の壁より現地問題解決を
最後に、次期大統領の「経験に基づく信念」が最も色濃く表れる対外政策として、中南米諸国への支援を挙げたい。同地域への社会的、経済的な支援を通じて、米国内で深刻化しているこれらの国々からの不法移民問題を解決したいというのが、バイデン氏の考えだ。
トランプ大統領は、不法移民を減らす策として、国境に物理的な壁を建設した。これに対し、米議会の外交畑での経験が豊富なバイデン氏は、「米国に不法移民が流入するのは、彼らが祖国で社会的、経済的に劣悪な環境に置かれているのが根本的な原因だ」との立場に立ち、中南米諸国の経済が豊かになり、治安が改善し、社会が安定すれば不法移民も減少すると考える。2014年頃にグアテマラ、ホンデュラス、エルサルバドルの「中米の北部三角地帯諸国」から未成年の不法移民が激増した際には、オバマ大統領(当時)の特命を受けて問題解決にあたり、米州開発銀行から拠出した7億5000万ドルと引き換えに、三国の指導者に対して「暴力や貧困によって人口流出が続く地域で対策を講じてほしい」と要請した実績がある。こうした経緯から中米諸国の貧困対策と開発協力はバイデン次期大統 領にとって思い入れの深い事業であり、引き続き米国の対外援助の重要課題として取り組んでいくものと予想される。
とはいえ、コロナ禍によって経済が低迷し、連邦政府の税収が落ち込む一方、米国内の失業者や零細企業の救済が待ったなしの状況であることを踏まえれば、援助予算の優先順位は下げざるを得ないのが現実だ。
バイデン次期大統領の対外援助構想は、「超党派の合意が得られやすい案件」(ロイター通信)であるものの、早くも多くの課題が予想されており、逆風の船出となるだろう。