鉄壁の感染対策脅かすベトナムの密入国問題 
新型コロナの国産ワクチン開発進む

  • 2021/1/28

 2021年1月1日の朝、ベトナムから新年の挨拶メッセージと、前夜のカウントダウン花火の画像がスマホに届いた。ひしめき合うバイク、広場に集まる人の群れ。いまどき世界のどこを見てもこれほど密なイベントはなかなかないだろう。2カ月近く市中感染ゼロが続いたベトナムだが、忍び寄る感染の波は鉄壁の対策をも突き抜けた。1月27日に北部で2人の感染が判明。少し前の1月17日には、関西空港から入国したベトナム人女性がイギリス型変異種に感染していることが空港検疫で分かっており、今回、北部で確認された感染者の1人はその濃厚接触者だという。これで、国内の累計感染者は1月28日時点で1553人となり、1日に判明した感染者数も同日午後時点でこれまで最多の82人を記録した。

2020年12月31日の夜にベトナム・ホーチミンで打ち上げられた花火 (筆者提供)

不法帰国者から陽性発覚 

 年の瀬も押し詰まった12月下旬、それまで1カ月近くにわたって市中感染ゼロが続いていたベトナムで陽性者が確認されたというニュースが流れた。発端は、不法「帰国」者の母親の通報だった。彼女の息子で、南部のメコンデルタ地方出身の30代男性はミャンマーで不法就労していたが、コロナ禍の影響で勤め先が操業を停止したことから収入が絶たれ、故郷にこっそり戻ることにしたという。

 ベトナムのオンラインメディア「VNエクスプレス」の12月31日付記事によると、男性はソーシャルメディアを通じて知り合った密入国の手引き者から、費用として5000万ベトナムドン(日本円で約25万円)をオンラインで支払うよう要求されたという。男性は、ベトナムにいる母親に連絡を取って3700万ドンの振り込みを依頼し、12月15日、6人のベトナム人とともにミャンマーからタイにトラックで移送された。母親は男性の指示通り、指定された見知らぬ女性名義の口座に22日までに2500万ドンを振り込んだものの、翌23日、「費用が不足しているため、タイ国境の森の中に取り残されている」との連絡を受けたため、急いで1200万ドンを追加で振り込んだところ、その日のうちに男性はカンボジアへ移されたという。翌24日、男性はボートでベトナムに渡って故郷のヴィンロン省にたどり着いた。彼と一緒に不法に入国した他の9人のうち3人の陽性が判明したが、彼らの濃厚接触者は陰性だった。

ミャンマーから不法入国でホーチミンに戻ってきた男性の陽性が判明し、封鎖されるアパート https://e.vnexpress.net/news/news/saigon-apartment-blocks-enter-lockdown-after-resident-tests-positive-for-novel-coronavir us-4212906.html より

 母親が地元当局へ通報したのは、男性が自宅へ戻った直後だった。複数の国を違法に移動して帰ってきた男性がコロナに感染しているのではないかと恐れたためだ。男性は当初、経緯が明らかになったことで、密入国を手引きした者たちから報復されるのではないかとおびえていたが、PCR検査を受けて陽性が判明したために他の不法入国者たちの行動が追跡され、市中感染が食い止められた。男性は現在、入院して治療中だが、地元警察は「危険な感染症を人に伝染させた容疑」で近く捜査を始める予定だという。

陸続きならではの課題 

 この報道には、既視感があった。さかのぼること半年前の昨年7月、中部ダナンで市中感染が確認され、第二波が広がり始めたのとほぼ同じタイミングで、中部をはじめ国内各地で中国人の密入国者が摘発されたというニュースが相次いで報道されるようになったのだ。当時は、陽性者と言えば、空港の検疫や、その後の強制隔離中に確認された人たちばかりで、市中感染が確認されたと聞いても、筆者をはじめ、ほとんどの人々にとって狐につままれたような感覚だったに違いない。時を同じくして密入国者のニュースが伝えられたことにより、SNSでは「中国からの密入国者がウイルスを持ち込んだことで市中感染が起きたのではないか」との憶測が飛び交った。

 ベトナムは、北部が中国と国境を接しており、中国からベトナムへの不法入国もあれば、不法就労や人身売買のためにベトナムから中国へ不法に出国するケースも多い。実際、12月末にも中国人を1人あたり600万ドン(約3万円)で計6人、首都ハノイから中部まで移送していたベトナム人運転手がダナン郊外で摘発された。

パトロールを行う国境警備隊 https://e.vnexpress.net/news/news/without-job-in-myanmar-covid-19-infected-man-pays-2-155-to-illegally-return-to-vietnam-4214007.html より

 さらに、ベトナムは、西側をラオスおよびカンボジアと接している。両国との国境線は5000キロメートルに渡り、117の国境ゲートと88の越境地点があり、国境警備隊が警備を行っている。昨年3月以降は国境が封鎖され、外交官や一部ビジネス目的の渡航をのぞき入国はストップしているが、VNエクスプレスの今年1月9日付記事によると、2020年の1年間にベトナムへの不法入国を試みた人数は3万1460人に上るという。内訳を見ると、最も多いのは中国人で2万5000人、次いでラオス、カンボジアと続く。コロナウイルスの感染拡大対策の観点から言えば、国境を陸路で接している東南アジア各国にとって、密入国は、平時にも増して頭が痛い課題だと言える。

旧正月に向けて強まる警戒

 ベトナム政府としては、感染を抑えたままで乗り越えたい山が2つあった。1月25日から2月2日までの予定で開かれている第13回共産党全国大会と、その後、2月12日から始まる旧正月だ。どちらも国家と国民にとっては一大行事だが、特に旧正月前には、例年、帰省や正月準備のために人の移動が活発になる。今年はいつもに比べれば少ないだろうが、海外に暮らす越僑や出稼ぎ者たちも大勢帰国するだろう。VNエクスプレスの1月28日付記事によれば、政府は「今後10日間の対策がカギ」としており、今回、市中感染が明らかになった地域の一斉消毒を行うことにしているほか、ハノイから専門家を送り込み大規模なPCR検査も実施する予定だという。

ラッキーカラーの造花を背景に写真を撮るのも正月前の楽しみだ https://thanhnien.vn/gioi-tre/hoa-mai-dao-dua-nhau-xuong-pho-don-tet-tan-suu-2021-1333516.htmlより

 しかし、コロナの変異種はイギリスから帰国したベトナム人からも確認されており、政府は検疫を強化するなどして警戒を強めている。また、これまでは一部の外国人専門家や航空会社の乗務員は集中隔離施設で14日未満の短期隔離を行った後、自宅や他の宿泊施設で自主隔離を行うことが認められてきたが、今後はすべての入国者に14日間の強制隔離が課され、例外は認められないことになった。イギリスと南アフリカからの国際便の乗り入れも禁止された上、他の国や地域からのフライトも旧正月期間は減便される見通しだ。

「迎春(mung xuan)2021」の文字が躍る中心部の目抜き通り https://thanhnien.vn/gioi-tre/hoa-mai-dao-dua-nhau-xuong-pho-don-tet-tan-suu-2021-1333516.htmlより

 現時点では、市民の間に混乱や緊張感はそれほどない。1月に入り、街中では例年通り旧正月カラーの赤と金(黄色)のディスプレイが始まった。ハッピーカラーで彩られた「迎春」準備が進められる様子は、こんなご時世だからこそ毎年変わらぬ営みができるありがたみを噛みしめているようでもある。

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