タイで軍が反政府デモを無差別攻撃
地元英字紙が「弾圧ではなくコントロールを」と批判

  • 2021/9/4

 タイの首都バンコクでは、政府のコロナ対策に不満があるとして、反政府デモが起きている。8月10日には、軍とデモ隊が衝突、負傷者が出た。8月22日付のバンコクポストでは社説でこの問題を採り上げた。

タイの首都バンコクで、国旗を掲げながらプラユット首相のコロナ対策への抗議デモを行う市民ら(2021年8月10日撮影) (c) AFP/アフロ

路上の無差別攻撃

 報道によるとバンコクのディンデーン地区で8月10日、コロナ対策への不満からプラユット首相の退陣を求める反政府デモが発生した。激しい衝突が起きたのはこの日の夕方。デモ隊に対して軍が催涙ガスやゴム弾などを発砲し、負傷者が出たという。
 社説によると、十代の若者がこの衝突で「無差別な攻撃」を受けて負傷した。
 「衝突に恐れをなした住民たちは逃げまどったが催涙ガスを浴びた。無差別攻撃を受けたティーンエイジャーの一人は、8月21日の時点でいまだ昏睡状態が続いている。これは、米軍が撤退してタリバンに占領されたアフガニスタンのカブールの様子ではない。ここバンコクで、プラユット政権に対し、新型コロナ対策が不十分だとして退陣を求めた人々に対して72時間前に起きた出来事なのだ」
 社説によれば、ソーシャルメディアは「無差別攻撃」の証拠を示す衝突の写真や動画であふれた。デモ参加者だけでなく、この衝突で被害をこうむった住民たちが憤り、こぞってソーシャルメディアにアップしているのだ。社説は、「世界中とまでいかなくとも、タイ国中の人々が、制服を着た治安部隊がデモ隊に何をしたか目の当たりにしただろう」と指摘した上で、次のように指摘する。
 「政府による反政府デモへの対応は、考えられるあらゆる面で間違っている。なぜなら、その対応によって、もともと反政府ではなかった人々まで怒らせてしまったからだ。おまけに、今回の攻撃によって、プラユット政権がいかに簡単に武力に頼るかということが明らかになり、武力や権力を責任もって執行するという政府の約束が単なる口約束であったことまで露呈した」

250年前の言葉

 さらに社説は、若者たちの反政府活動に武闘的な側面が加わったことを認めた上で、「それでもなお、政府が武力を行使していいという理由にはならない」と、批判する。
 「政府は、タイ国内で武力を使うことを許された唯一の存在であり、その行使にあたっては倫理的に正しくあらねばならない。その意味で、現場の治安部隊は、デモ隊を弾圧するのではなく、コントロールするように努めるべきだった。にも関わらず、政府は今回、蚊を大型ハンマーで殺すような仕打ちをしたのだ」
 「アイルランドの政治家で哲学者であるエドマンド・バークは1771年、権力が大きければ大きいほど乱用の危険性が高い、と指摘した。この言葉が真実であることは、250年経った今回のタイの出来事が証明した」
 その上で社説は、コロナ対策の名のもとで国民の権利や自由が制限され、政府に力が集中したと指摘する。
 「今、政府がしなければならないのは、現状を見つめ直すことだ。この国は、以前も政治的な袋小路に陥った経験がある。そのような時に何をすればいいのか、すべきではないのか、多くの知見が蓄積されているはずだ」
 大きく動く世界情勢と新型コロナの感染拡大の中で、タイの政情不安はあまり注目されなくなってしまった。しかし今後も、さまざまな社会事象を通じてプラユット政権への批判がタイ社会に蓄積されていくのだろう。アジアの新興国であるタイの政情不安は、東南アジアやアジア全体の社会経済の安定にも関わってくる。日本も決して無関係ではいられない。

 

(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2169135/control-dont-subdue-protests)

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