ベトナムで2カ月ぶりにロックダウンが段階的解除へ
都市圏のワクチン接種はフル稼働 経済回復がカギ 

  • 2021/10/13

地域差大きい接種状況 抗原検査も同時進行

 ベトナム国内におけるワクチンの接種状況やタイミングは、地域によって大きな差がある。都市部や周辺のベッドタウンでは接種率が非常に高く、首都ハノイや中部の最大都市ダナン、ホーチミン近郊のドンナイ省では、1回目の接種率は9割近くに上っている。
 特にホーチミン市では、1回目の接種率が95%を超え、2回目の接種率が100%に達した区もあるという。中心部に暮らす筆者の友人夫婦の場合、町内会長から突然、翌日に1回目の接種を受けるよう伝えられ、アストラゼネカ製のワクチンを接種した。その後、1カ月以上経ってから、やはり直前に連絡があってファイザー製のワクチンを接種したそうだ。その後も、近所で感染者や濃厚接触者が確認されると直ちに抜き打ちの抗原検査が行われるため、気が抜けない。
 同市では、子どもへの接種も検討されている。すでに市の教育当局は人民委員会に対し、接種対象を12歳から18歳の学生64万人以上にも拡大するよう提案した。ベトナムでは9月に新年度が始まっているが、6月中旬の学年末から夏休み期間を経て休校やオンライン授業に移行したままで、年内の対面授業は難しいとの見方も広がっている。

中部ダナンで、幼稚園と小学校のオンライン始業式にそれぞれ臨む姉弟 (c) tuoitrenews (https://tuoitrenews.vn/news/education/20210905/202122-school-year-opens-amidst-covid19-pandemic-in-vietnam/62945.html)

 その一方で、全国規模で見ると、63の省・市のうち半数以上が1回目の接種率が3割未満で、ワクチンの十分な確保と供給体制が求められている。政府は海外からワクチンを調達しているほか、日本やアメリカなどから寄贈を受けている。9月末にはロシア製ワクチンの「スプートニクV」も初めてベトナムに到着。今回輸入した74万回の半量を基に、国内生産に入る予定だという。そのための技術移転もすでに行われているほか、7月には製造に成功しており、ロシアの研究機関から安全性と有用性に関する認証も受けている。計画では、月間で500万回分、将来的には年間で1億回分の生産を目指している。

ホーチミン郊外のドンナイ省で行われているワクチン接種 (c) ベトナム政府(https://covid19.gov.vn/ca-nuoc-da-tiem-duoc-hon-46-trieu-lieu-vaccine-phong-covid-19-171211004132238633.htm)

国内線の運航再開 外国人観光客の試験的受け入れへ 

 感染拡大防止に向けた努力が続く一方、経済活動の再開も進められている。8月下旬から運航が停止されていた旅客便の国内線が、10月10日以降、運航が一部再開される見込みだ。航空当局によると、空港を有する20の省・市に対し現時点で13カ所から回答があり、ホーチミン発着を含む10の路線が再開する見通しだという。
 一方、首都ハノイのノイバイ空港や、近郊の港湾都市ハイフォンなどの3空港は準備期間の延長を求めているため、北部から南部へ移動しようとすると、ハノイから車で3時間ほど行った別の空港を利用しなければならない。
 また、利用に際してもいくつかの条件がある。乗客は「2回の接種を終えていること」「2回目の接種からの期間が少なくとも14日以上12カ月以内であること」。また、「コロナに罹患した者は、回復から6カ月以上が経っていること」を証明する必要もある。さらに、保健省が指定する感染拡大地域や、感染の恐れのある地域である「レッドゾーン」の住民は、離陸前72時間以内に受けたPCR検査または抗原検査で陰性であった証明を提出する必要がある。
 特に、ホーチミンをはじめとする南部の感染拡大地域からの出発では、上記の陰性証明に加えて、搭乗後7日間、自宅や宿泊場所で健康チェックを行うほか、初日と7日目にはPCRまたは抗原検査を行うことが義務付けられている。これだけ制限をかけているのは、ビジネスや、よほどの急を要する移動を想定してのことだろう。気軽に旅行を楽しむにはあまりに敷居が高く、一般客の利用はまだ先のことになりそうだ。

ホーチミンの空の玄関口、タンソンニャット空港に着陸するベトナム航空機 (c) vnexpress (https://e.vnexpress.net/news/travel/flights-set-to-take-off-on-10-domestic-routes-sunday-4368190.html)

 観光地の経済回復をはかるために、国内2カ所のリゾート地では、試験的に11月から外国人観光客を受け入れる準備が進んでいる。中南部のニャチャンと、南部のカンボジア国境に近いフーコック島だ。どちらも、ワクチンパスポートを取得し、コロナ感染から回復した証明書を有する者に限っているほか、未成年者については出国前に陰性証明書の取得を義務付けている。
 このうちニャチャンは、当面、滞在を島内の一部に限定し、チャーター便に限って受け入れを開始し、経過を見ながら滞在地域の拡大を図る方針だ。以前は、国内はもとより、特にロシアから”避寒地”として人気が高く、直行便も就航し、冬をビーチで過ごす旅行者で賑わっていたニャチャンが、再びにぎわいを取り戻す日が待ち遠しい。
 他方、フーコックは、国内観光客が年間28%、そして海外からの観光客は年間45%のペースで増加し、大型リゾートや世界的ホテルチェーンの進出も相次いでいた矢先に、コロナ禍に見舞われた。そんな同島では、観光客の受け入れを再び加速させたい一方、ワクチン接種率の低さが懸念されている。地元の人民委員会によれば、1回目の接種を終えた18歳以上の住民は全体の34%、2回目は7.4%にとどまっているという。

南部のリゾート地・フーコック島の観光を楽しむ旅行者(2021年4月撮影 (c) tuoitrenews (https://tuoitrenews.vn/news/business/20211004/vietnams-phu-quoc-island-to-welcome-intl-visitors-in-late-november/63404.html)

 感染状況やワクチン接種、国内外の状況をにらみながらの試行錯誤はしばらく続きそうだが、友人知人とのやりとりでは、「やっと自由に買い物に出られる」「好きなものを手に取って買えるようになった」というのが巷の声のようだ。明るい兆しの連鎖が広がることを願うばかりだ。

 

 

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