なぜ米国の銃規制は失敗するのか
進まない立法化の背景から浮かび上がる無情な将来
- 2022/6/23
銃社会の米国で、銃乱射による大量殺人の連鎖が止まらない。5月14日に18歳の白人青年が黒人に対する憎悪からニューヨーク州バッファローの生鮮スーパーで10人を射殺した事件が起きたのに続き、5月24日にはテキサス州ユバルデの小学校で18歳の男が自動小銃を持って教室内に侵入し、児童19人と教員2人を殺害した。その後も、小規模の事件が頻発している。このような悲惨な事件が起こるたび、米国では殺傷用の銃規制法案が議論されるが、抜本的な立法は一向に進まないのはなぜか。銃所持や銃犯罪の統計数字から読み解く。
人口100人当たり120.5丁
銃規制強化を求めるデモが全米各地で開催された6月11日、参加者たちは「守るべきは銃ではなく子どもたち」などと書かれたプラカードを掲げ、「今こそ行動を起こさなければならない」と訴えた。
こうした中、米上院の超党派グループは6月13日、21歳未満の銃購入者に対する身元調査の厳格化や、銃の違法購入の取り締まり強化などを含む法案の内容に同意した。ユバルデで児童多数が亡くなった事件が、銃規制には基本的に反対の立場をとる共和党を動かしたのだ。だが、法案は殺傷用の武器の完全禁止や没収にはほど遠く、細部で合意に至っていないため、最終的に成立するか不明である。
民主党のアレキサンドリア・オカシオコルテス下院議員の集計によれば、米国で2009年から2018年の10年間に発生した学校内での銃撃事件は288件に上る。平均で1年間に30件近く校内で銃使用事件が起きている計算になる。1カ月当たり2件以上という異常さだ。米国は、子どもを守ることに失敗している。
米ニュースサイトのVoxの調べによれば、自殺と殺人を合わせ、毎日平均110人が銃によって命を落としている。年換算では4万620人だ。米国の銃殺人率は、他の先進国の26倍、銃自殺率は12倍に上るという。
スイスにある銃関連調査機関のスモールアームズ・サーベイによれば、米国内では2017年時点で3億9000万丁の小火器が流通していた。人口100人当たり120.5丁の銃が行き渡っている計算で、世界の中でもダントツの多さだ。しかも、その後、2022年までの5年間で銃の数はさらに増えたと推定されており、米国の調査企業ギャラップ社によれば、2021年には全米世帯の42%が何らかの銃を所有しているという。
しかし、これはすべての米国人が銃を所有していることを意味しない。上の図表にあるように、米国世帯における銃保有率の推移を見ると、銃乱射が頻発していなかった1970年代から現在に至るまで、37%~47%を安定して推移しており、しかも近年は狩猟人口の減少から、銃保有率も漸減傾向にある。
ギャラップが2019年に銃所有者に対して自由回答方式で調査したところによれば、銃を所有する理由として、63%が自衛を挙げた。続いて狩猟が40%、レクリエーションやスポーツが11%となっている。
では、銃保有率が減少している一方で、なぜ、銃の数が近年、激増しているのか。その理由として、銃を多数保有する「スーパーオーナー」と呼ばれる世帯で銃の数が増えたことが挙げられる。2016年にハーバード大学などが行った調査によれば、全米世帯のわずか3%が全米で流通している銃の5割以上を保有しているという。まさに、スーパーオーナー世帯が自宅に多数の銃のコレクションをしている状況が如実に表れていると言えよう。スーパーオーナーだけ見れば、1軒あたりが所有している銃の数は、平均17丁に上る。
つまり、狩猟する人が減って銃所有率が下がる一方、多くの場合、狩猟用ではない対人殺傷銃器を大量に保有している少数の「スーパーオーナー」たちが米国の銃社会を形成しているという構図が見えてくる。
党派の違いで説明できない銃文化
ただし、銃犯罪を起こす人たちがすべてスーパーオーナーだという根拠はない。また、スーパーオーナーが支持する政党の統計も存在しない。他方、銃保有者の支持政党は、共和党にとどまらず、民主党や無党派にも広がっている。女性や黒人の銃保有者も多い。
こう考えると、米国の銃社会の構造は、「銃規制を推進する民主党」対「銃規制を阻む共和党」という対立や、「銃保有者は白人男性」といった広く流布する言説よりはるかに複雑だと言える。
まず、「銃製造業界や銃所有者のロビー団体である全米ライフル協会(NRA)や共和党が銃規制を阻止しているために、米国で銃犯罪がなくならない」という言説は、問題の一面しかとらえていない。
確かに、数十丁単位で対人殺傷銃器を保有しているスーパーオーナー世帯に、攻撃用の銃器を大量に売り込む銃製造業界の利益団体であるNRAが接近し、政府の規制を嫌い、政治思想としての「自存自衛」を重んじる保守派や共和党と結び付くことは、自然な流れだと言える。
ところが、銃保有者の割合を見てみると、共和党支持者が民主党支持者の2倍以上に上る一方、民主党支持者や無党派層にも銃の所有者は少なくない。下図に挙げた2021年の調査では、銃所有者を示す青線の割合が共和党支持者で50%に上り、民主党支持者21%、無党派層27%と続く。家族が銃保有者である黒線にも、同じ傾向が見える。
加えて、2012年に起きたコネチカット州サンディフック小学校の銃乱射事件(児童20人と教師6人に加え、犯人とその母親の計28人が死亡した)や、2015年のカリフォルニア州サンバーナディノにおける乱射事件(市民14人と犯人2人の計16人が死亡)、さらに、2020年に盛り上がった「ブラックライブズマター」暴動の直後には、銃購入のための身元調査件数が全米で急増している。
皮肉なことに、銃乱射事件は、銃規制や銃保有数の減少とは真逆の結果に作用することが多い。「自由な国家が安全を維持するためには規律ある民兵が必要であり、国民が武器を保有また携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定する合衆国憲法修正第2条の「自由な国家の安全」や、そのための「民兵」が人々の意識から抜け落ち、個人の自己防衛のために武器保有権が優先されているのが現状だ。
これは、銃所有で実際に身を守ることが可能かという問題以前に、恐怖が恐怖を呼び、人々が感情レベルの「防犯意識」で動いていることを示唆しており、党派を超えたリアクションであるように見える。
翻って、青色で示されている2021年時点の銃保有者の性別(ただし自己申告)を見ると、男性が40%、女性が22%と、男性が女性の2倍近くに上るが、女性にも銃保有者が少なくない。