なぜ米国の銃規制は失敗するのか
進まない立法化の背景から浮かび上がる無情な将来

  • 2022/6/23

進む社会の分断と急増する無差別殺人

 こうした統計は、党派や性別や人種が銃所有の決定的な要因ではないことを示唆している。「銃を乱射する保守派の白人男性」というイメージを前提にした銃規制が進まないのは、銃所有者、銃犯罪者、銃乱射犯の混同による前提の誤りが一因かもしれない。

 事実、銃所有者と銃犯罪者では、人物像が異なっている。また、同じ銃犯罪者でも、乱射ではない銃犯罪者には黒人やヒスパニック系も多く含まれるが、4人以上を死亡させる無差別殺人の乱射犯のプロフィールを見ると、ほぼすべてが白人男性であり、圧倒的に若者が多い。

 米連邦捜査局(FBI)が2000年から2019年に米国内の公共の場所で起きた333件の銃乱射事件を分析したところ、計345人の容疑者のうち、女性は13人にとどまり、男性が332人を占めた。

 また、狙撃犯には共和党支持や民主党支持といった党派の傾向も認められない。なお、人種的には白人が圧倒的に多い。

1982年1月から2022年6月に起きた銃乱射事件の犯人の人種を見てみると、白人が他の人種を圧倒している。(c) Statista

 一方、家庭内暴力やギャング抗争、強盗目的、怨恨殺人などを除く、犠牲者4名以上の無差別銃乱射の発生件数を見ると、1990年代後半から急激に増加がみられる。米国社会で銃犯罪は古くから存在したものの、これほどの頻度と被害者の数を記録する無差別殺人が頻発するようになったのは、ここ30年くらいの新しい現象であり、しかも「若い白人男性」が主な犯人像として浮かび上がるのである。

米連邦捜査局(FBI)がまとめた、2000年から2019年に米国内の公共の場所で起きた333件の銃乱射事件の毎年の発生件数。1990年代後半から2000年代にかけて増加し、2010年代に爆発的に増加している傾向がわかる。(出典: FBI

 つまり、アメリカでは、建国以来、自由に銃を所持できたにもかかわらず、つい最近まで「銃の無差別乱射事件の頻発」はなかった。

 これらの事実から、銃乱射に限って根源的な解決を望むのであれば、銃規制法案などで対人殺傷用武器の数を減らすだけではく、①無差別殺人が急増した過去30年に、米国社会は社会的、政治的、経済的にどう変化したのか、②世の中に絶望して他人を道連れに自殺を図る、「無敵の人」と呼ばれる若い男性が増えたのはなぜか、という社会的な側面から考えなければ不十分だということが示唆されている。

 しかし、こうした根源的な問いは、極端に右翼的、または左翼的な路線を追求することで米国社会の分断を煽ってきた共和党と民主党の双方にとって、社会的連帯感の破壊や社会経済政策の失敗という、都合の悪い過去があぶり出されることにつながる。だからこそ、両党が銃乱射犯罪を根本的に解決するために行動を起こすとは考えにくい。

 また、憲法でも保障されている銃所持の権利は、米連邦最高裁判所によって繰り返し確認されているため、米議会が奇跡的に銃規制の法律を作れたとしても、司法がそれを無効化させるに違いない。

 大変無情な結論だが、米国の政治構造と、近年進行している社会の分断に鑑みれば、問題の解決は望めない。これからも銃乱射事件は頻発し、時には無垢な子どもたちまで犠牲になってゆくだろう。

 

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