「リスク」と「使命感」の間で揺れ動くフォトジャーナリストたち
アムステルダムで開かれた「世界報道写真展2024」より
- 2024/6/17
グローバルな問題から個人レベルまで多様なテーマ
写真展では、非常に広い問題にも視点が向けられた。紛争や政治的混乱、気候変動や移民、少数民族などのグローバルな問題から、家族や認知症といった個人レベルでの問題をテーマとした写真などが入賞した。
各地域の受賞作品の中から、「シングル」「ストーリー」「長期プロジェクト」「オープンフォーマット」という4つの部門で1つずつ選ばれたグローバルな4作品も、実に多彩であった。
2024年世界報道写真の「ストーリー」部門で選ばれたのは、南アフリカの写真家リー=アン・オルウェージ氏による、マダガスカルの一家の生活を描いた「ヴァリム・バベナ」という複数写真から成る作品だ。認知症をわずらった90代の男性と、その世話をする娘一家の生活が映し出される。認知症というと、つい重い問題として捉えられがちだが、同作品からは家族の愛が感じ取れた。
また、アジア地域から入賞した京都新聞の写真記者、松村 和彦氏による「心の糸」も、認知症をテーマにした作品だ。特殊に撮影されたモノクロの写真とストーリーによって、認知症患者から見た世界が表現されている。
3年以上にわたる長期的な取材をもとにした「長期プロジェクト」部門を受賞したのは、アレハンドロ・セガーラ氏による「二つの壁」という作品だ。ベネズエラ出身でメキシコに移住した経歴を持つセガーラ氏自身が、南米からメキシコを通って、米国に渡ろうとする移民たちの姿を映し出した。
写真を中心としつつ、特殊な撮影をした写真や、多様なメディアと組み合わせてストーリーを伝える作品を表彰する「オープンフォーマット」部門では、ウクライナのユリア・コチェトワ氏が選ばれた。「戦争はパーソナル」という作品で、写真にイラスト、音楽、ナレーション、文字でのメッセージのやり取りが重ねられたウェブベースの作品だ。戦争は決して数字ではなく、個々人に影響を与えるものだということを伝えたかったのだという。
なお、世界報道写真ファウンデーションの展示&パートナーシップ・ディレクターであるバベット・ヴァレンドルフ氏は現在、日本で写真展を開催するためのスポンサー探しに奔走しているという。長年にわたり東京で写真展を開催できていたのは、朝日新聞社のスポンサーシップがあってのことだったが、新型コロナウイルスのパンデミックで展示が中止されて以来、再開の目途が立っていないという。
「日本での新たなスポンサー探しに奔走しています。ご興味のある方、またはご興味のある方とのコンタクトにご協力いただける方がいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡ください」とヴァレンドルフ氏は言う。
世界報道写真展の受賞作品は、オンランでも見ることができる。しかし、写真展の会場で大きく引き伸ばされた写真に向き合うことで、そのメッセージをより多く受け止められるだろう。激動の現代、各地の人々はどんな課題に直面しているのか、写真を通じて考えることで、世界の不安定さ・脆弱さを感じ取れるだろうか。他の国で起きていることも決して遠いことではなく、いつどこで自分事になるかも分からないと気付かされるだろう。