絶望のガザ地区を考えるイベントが緊急開催
「天井のない監獄」は「地上の地獄」に

  • 2023/10/12

 パレスチナのガザ地区を実効支配する武装組織ハマスは10月7日、イスラエルへの攻撃を行いました。対するイスラエル軍も激しい報復行動に出ており、双方の死者は10月11日時点で2000人を超えました。攻撃の応酬が激化する中、アメリカはイスラエルを全面的に支持する姿勢を表明し、11日には最新鋭の武器や弾薬がアメリカからイスラエルに届けられました。イスラエルはガザ地区を封鎖して生活必需品の供給を遮断しており、今後、地上侵攻が始まれば、犠牲者の増加と人道的な危機の深刻化は必至です。

 こうした現状に強く胸を痛めている一人が、映画を通じて世界と日本をつなごうと取り組むユナイテッドピープルの関根健次さんです。現在の活動を始める原点となったガザ地区を巡る現状について、今の思いを赤裸々に綴りました。

イスラエルの空爆で親族が死亡し、病院で嘆き悲しむパレスチナ人女性たちと、負傷した少年(2023年10月11日撮影)(c) ロイター/アフロ

突如始まったハマスによる無差別殺戮と、その後の報復

 第28回釜山国際映画祭(10月4日~13日)に参加するために韓国に入った10月7日のこと。何気なくなくXのタイムラインを眺めていると、パレスチナの人々がガザ地区のフェンスをブルドーザーで破壊してイスラエル側に侵入している様子が次々と流れてきて、何が起きているのか理解が追いつかず、混乱した。

 やがて、パレスチナ自治区ガザを実効支配する武装勢力ハマスがイスラエルに対して大規模攻撃を行ったということが分かってきた。音楽フェスに参加していた若者らが250人以上惨殺され、多数が拉致されたと知り、愕然とした。間違いなくテロである。

 この地域では、過去にもたびたび衝突があったが、今回は規模が違う。とはいえ、ハマスの攻撃は、まるで蚊が象に戦いを挑んだようなもの。たちまち制圧され、その後には信じられない規模の報復が待っているということは、過去の例から明らかだった。

 ジェット戦闘機の轟音。

 ミサイルの爆発音。  

 人々の悲鳴。  

 そして、救急車のサイレンの音や巻き上がる土埃

 遠く離れた釜山国際映画祭のマーケット会場にいても、こうした騒音や悲鳴が生々しく聞こえて来るようで、映画祭の間中、上の空だった。ガザ地区は、昔、行ったことがあり、僕の原点とも言える大切な場所だし、イスラエルもパレスチナも、今年6月に訪れたばかりで、知り合いの顔が次々に浮かんできた。

 残念ながら、6月にイスラエルで会った取引先の息子の友人は、先日、殺されたそうだ。音楽フェスで行方不明になった人たちの中にも、公私さまざまに縁のある人々が何人かいる。爆弾が落とされているどちら側にも愛する人を失った人々がおり、彼らの悲痛を想像すると心が砕けそうになる。

悪い予感は、想像を超える

 この記事を執筆している10月11日現在、イスラエルはガザ地区に対する報復として空爆を途切れることなく続けている。30万人の予備役も招集された。まもなくガザへの地上侵攻が実施されるものとみられる。

 イスラエルのヨアフ・ギャラント国防相は9日、「私はガザ地区の完全包囲を命じた。電力も、食料も、ガスも、何もかも止める。我々が戦ってる相手は人間のような動物(Human Animals)なのだから、それに従い行動するまでだ」と発言した。

 驚愕した。ガザ地区に暮らす200万人以上の人々を全員、「人間ではない」と断定し、攻撃を宣言したようなものだ。ガザ地区には、女性も、子どもも、学生も、老人も、そして普通に働いているビジネスパーソンも暮らしており、人口密度は世界で最も高い水準にある。電気や水、ガスなどのライフラインも、そして食料や燃料、医薬品も止められれば、彼らは飢えに苦しみ、ゆっくりと殺されていくしかない。報復だからといって、どんなことをしても許されるなんてことがあってはならない。11日には、ガザ地区で唯一の発電所が燃料切れのために停止した。悪夢が始まる。

 ハマスはイスラエルによってテロ組織に指定され、ハマスが実効支配するガザ地区は壁やフェンスなどによって封鎖されてきたため、「天井のない監獄」と言われてきた。しかし、日夜、頭上に爆弾が降り注ぎ、どこにも逃げ場もない現状は、もはや「地上の地獄」だ。

 イスラエル軍の幹部は、ガザ地区の住民たちに対し、エジプトに避難するように勧告したという。

 にも関わらず、ガザ地区とエジプトをつなぐ唯一のラファ検問所は、そのイスラエル軍によって空爆された。BBCは、「ラファでは通常、日に400人の出入りが許可されているが、ガザ地区の内務省の発表によれば、9日と10日に実施されたイスラエルの空爆によってパレスチナ側のゲートが破壊され、通行ができなくなった」と、状況を伝えている。爆弾に追われた人々は、どんなに怖かったことだろう。おぞましくて、これ以上は書く意欲すらなくなる。ガザの人々を集団で処罰するやり方は、明らかな国際法違反である。

「ガザに暮らす普通の人々の姿を伝えたい」

 学生の頃に初めて訪れたガザ地区は、世界の他の国々と変わらない、いや、むしろ他の国々よりもずっと気さくで優しい人々だった。どこへ行っても歓迎してくれ、商店街を100メートルも歩けば、ジュースを、タバコを、そしてコーヒーを振舞ってもらった。

 しかしこの時、衝撃的な出会いもあった。明るくボール遊びをしていた少年に何気なく将来の夢を尋ねると、かつて肉親を目の前で殺されて以来、憎しみを内に抱え続けていた彼は、「爆弾を作って、敵を一人でも多く殺したい」と答えたのだ。「子どもが子どもらしい夢を育み、成長できる世界をつくりたい」という、現在の活動につながる思いが、この時、僕の中に芽生えた。

笑顔で近寄ってきた現地の子どもたち(1999年1月、筆者撮影)

商店の前を歩けば、皆が飲み物や食べ物をくれた(1999年1月、筆者撮影)

話を聞いた医師の一人は、「その気になればいつでも欧米に仕事を見つけられるが、 同胞のためにガザにい続ける」と話した(1999年1月、筆者撮影)

 その後、僕はユナイテッドピープルを創業し、映画の力で世界を変えようと映画の配給を始めた。その中で、ガザ地区で出会った気さくで優しい、ごく普通の人々の姿を伝えようと2022年に公開したのが、ドキュメンタリー映画『ガザ 素顔の日常』だ。前述の通り、ガザ地区やパレスチナはユナイテッドピープル創業の原点と言える場所であり、僕は、映画事業を開始してからの10年間、ずっとその辺りの作品を探し続けていた。この作品は、僕自身が初めてガザに行った時に感じたこと——紛争地とはいえ、そこには普通の人々の暮らしがあり、日常がある——を伝えてくれる、素晴らしい作品だと思い、公開を決めた。

 今回、釜山滞在中に、この映画の字幕を監修してくれた並木麻衣さんから連絡を受けた。オンラインで『ガザ 素顔の日常』の緊急上映会ができないか、という相談だった。パレスチナ支援などを行う日本国際ボランティアセンター(JVC)に勤務している彼女は、筆者と同様、「この状況に何か行動しなければ」という思いを抱えていた。

 僕は、迷うことなく「すぐに検討します」と返し、帰国後、すぐに上映の準備を開始した。武装勢力とは関係のない非武装の一般市民が次々と殺戮されていくなか、「現状を伝えたい」「少しでも現地の助けになりたい」という思いから、寄付付きのイベントを企画した。当日は、映画『ガザ 素顔の日常』を上映後、パレスチナ研究者の鈴木啓之・東京大学准教授をはじめ、NGO「パレスチナ子どものキャンペーン」エルサレム事務所代表の手島正之さん、前出の並木さん、そして国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)保健局長の清田明宏さんとともに、現地の今について考える予定だ。憎しみの連鎖を断ち切るために、ぜひ参加していただき、何が起きているのか知っていただきたい。そして、ガザ地区の「素顔の日常」も併せて知っていただきたいと思う。

 詳しくは、以下をご覧ください:

 2023年10月14日、緊急開催!

【ガザ地区で何が起きているのか?】映画『ガザ 素顔の日常』オンライン上映シンポジウム ⇒ https://gaza2023.peatix.com/view

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