潜伏中に撮影した衝撃作、東京・大阪で上映 ミャンマー映画監督コパウ氏の執念
多くの映画人が抵抗、拘束続く

  • 2022/10/15

 昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後に抗議活動に参加して当局に追われる身となり、現在も国境地帯に潜伏中の映画監督コパウ氏の新作短編映画「歩まなかった道(英題:The Road Not Taken)」の上映会が10月9日、東京であった。潜伏中のジャングルで撮影したもので、実際に抵抗運動を続けるレジスタンスの兵士らが出演する衝撃作だ。海外在住のミャンマー人らが中心となり、名古屋や大阪でも上映されたほか、世界9カ国で上映が予定されている。

10月9日、オンラインで舞台挨拶を行うコパウ監督(筆者撮影)

敵の兵士を人間として描く

 映画はまず、辺境に配置された国軍兵士の日常から始まる。悪名高い第66軽歩兵師団の兵士が主人公だ。そのうちに軍事クーデターが起き、市民が抗議の声をあげ弾圧される中で主人公は、市民弾圧にあたるよう異動の命令を受ける。主人公の揺れる思いが物語の主軸だ。コパウ監督ら抵抗運動を続ける人たちにとっては敵方の兵士だが、家族とのやり取りを丁寧に描写して血の通った人間としてしっかり描いている。実際の出来事をもとに物語を組み立てたという。

 監督が潜伏する地域で活動する武装勢力の協力を得て、実弾を積んだ機関銃による銃撃戦など、通常の撮影では撮ることのできないシーンが盛り込まれている。登場する国民防衛隊(PDF)の兵士も本物だ。機材が限られるためスマートフォンで撮影したといい、現場感あふれる場面と荒々しい編集が、現地のリアリティーを物語る。

東京で開かれた上映会で3本指を掲げる観衆(筆者撮影)

 東京でのイベントでは、コパウ監督がオンラインで登壇した。この作品を製作した目的を「(クーデターに抵抗する)仲間を増やすためだ」と説明。「今からでも遅くはない」として、現在国軍に従っている国民に対して、反対運動に加わるように訴えた。

 また2020年のクーデターまで5年間続いた国民民主連盟(NLD)時代の民主化について、「本物の民主主義は言えないが、少なくとも私たちは民主主義を味わった。私も香港や日本と共同制作の話などがあったが、クーデターで夢がついえた。私だけではなく多くの人が同じように夢を失った」と回顧。民主主義の時代を知る市民が、弾圧にも関わらず頑強に抵抗する理由を解説した。

「表現の自由」謳歌した経験

 コパウ氏は、ミャンマーを代表する映画監督のひとりだ。作品の幅は広く、未開の島の住民が都会に行くドタバタコメディを撮ったかと思えば、アクションも手がけ、社会問題に迫るテーマも扱う。2019年公開の「涙は山を流れる」では、農村部の小学校を改革する熱血教師というこれまでのミャンマー映画にはない切り口を見せ、ミャンマー・アカデミー賞の候補となった(コロナ禍とクーデターのため受賞作は決まらず)。

 クーデター発生後には、同じく映画監督のルミン氏らとともに街頭に繰り出し、反軍ストライキである「市民不服従運動(CDM)」への参加を訴えた。その後ルミン氏は逮捕。コパウ氏も追われる身となり、国境の少数民族支配地に逃れた。留守宅が国軍側に接収されたほか、家族も弾圧の対象となった。軍の襲撃を受けてやっとのことで落ち延びた妻が、交流サイト(SNS)で涙ながらにその様子を訴えたこともあった。

東京で行われた上映会には在日ミャンマー人ら多くの人が詰めかけた(筆者撮影)

 筆者は、コパウ監督とは縁がある。彼が製作するアクションコメディに、日本人将校の役者として出演したのだ。コパウ監督は、表現の自由が拡大して映画業界が活性化する流れの中で、多くの商業映画を撮ってきた。小型カメラを利用した接写や、豪快に発破を使い建物を燃やすアクションシーンなど、新しい撮影手法を取り入れる姿は映画作りを心から楽しんでいたように見えた。「本物の民主主義ではない」と言いながらも、それが奪われてはならないものだと確信させるには十分な経験だったに違いない。

 ミャンマーでは、クーデター後に映画関係者が抗議の声をあげ、次々と逮捕されている。前述のルミン監督以外にも、コパウ氏のおじにあたる人権派監督のミンティンココジー氏は2月1日のクーデター当日に拘束。また、俳優のパインタコン氏、女優エインドラ・チョージンと俳優のペティウー夫妻、新世代監督の代表格だったクリスティーナ・キーと俳優ゼン・キー夫妻ら家族で逮捕された例も少なくない。

 独立系映画プロデューサーのマ・エイン氏、在日ミャンマー人映像作家のテインダン氏も収監中だ。日本のドキュメンタリー作家の久保田徹氏も取材中に拘束され、3つの罪の合計で禁固10年の判決を受けたばかりだ。

世界各地で行われる「歩まなかった道」の上映会のポスター

 コパウ監督はこの映画を、日本をはじめ各国の映画祭で上映することを目指す。また、現在も別のドキュメンタリー作品などを準備しているという。再び自由に映画を撮ることができる日を目指して、今後も作品を撮り続けるつもりだという。

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