中国が「9・3軍事パレード」で世界に発したメッセージの裏側
肩を並べた社会主義独裁者の三兄弟 「動乱の枢軸」の行方は
- 2025/9/22
9月3日に北京で開催された反日反世界ファシズム戦勝80年記念の軍事パレード閲兵式は、アメリカのトランプ大統領をして「美しい式典」と言わしめるほどの大成功を収めた。特に、中国の習近平国家主席の右側にロシアのプーチン大統領が、また、左側には多極外交の場にめったに姿を現さない北朝鮮の金正恩総書記が立ち、アメリカをも直接、攻撃できると見られる大陸間弾道ミサイル(ICBM)やAIドローン兵器の数々を眺める姿を、メディアを通じて世界中に発信できたことは、外交パフォーマンスの観点から実に効果的だったと言えるだろう。この「社会主義独裁者三兄弟」が肩を並べたのは、今回が初めてだった。
また、イランのペゼシュキュアン大統領も、今回の軍事パレード閲兵式に合わせて中国を公式訪問し、習氏と会談した。イランは、中国が主導する上海協力機構(SCO)が8月31日に開催した天津サミットにも参加し、両国の強い絆を見せつけた。つまり、この日は西側世界が「動乱の枢軸国」と呼ぶ中国、ロシア、北朝鮮、そしてイランの4カ国が天安門楼上に並んだのだ。さらに習氏は記念演説で「台湾」という名前こそ出さなかったが、解放軍の神聖な任務として「主権の保護、統一、領土保全」を掲げることで、台湾統一に向けた強い意思を示した。
今回のパレードの成功を受けて、世界は今後、どのようなリスクを意識する必要があるのか。習氏の主導で極権主義的な正義や価値観に基づく世界の再構築が進み、アメリカを中心とする国際社会との対立が深まるならば、どんな展開が予想され、また、それを阻止する方法はあるのか、考えてみたい。
極権体制の拡張と強まる第三次世界大戦の懸念
オーストラリア在住の華人法学者で、反共産党の主張で知られる袁紅冰氏は、今回の「9・3軍事パレード」の様子を見て、アメリカに拠点を置く多言語メディアで中国政府に批判的な報道で知られる大紀元時報(通称、大紀元)などに、「中国共産党を核心とするスーパーファシスト集団が、世界に向けて新たな世界大戦を仕掛ける準備を進めている」「国際社会は中国共産党をいかにしてたたきのめすのか、真剣に考えなければならない。さもなければ第三次世界大戦の勃発は避けられまい」との論評を寄せた。
特に、金正恩総書記とプーチン大統領が習近平国家主席の左右に立って中国の最新兵器を見下ろす構図は、「動乱の枢軸」である国々が欧米諸国に対抗するために強い同盟関係を結んだかのような印象を世界に発信したと、同氏は言う。
中国、ロシア、北朝鮮はいずれも核保有国であるだけでなく、第二次世界大戦後に他国に戦争を仕掛けた国家でもあり、領土拡張の野望を隠していない。プーチン大統領は旧ソ連時代の領土を回復したいと考えており、ウクライナに武力侵攻しただけでなく、バルト三国をも併呑する意欲を有している。金正恩総書記には韓国を併合して朝鮮半島を統一したいという野望がある。そしてもちろん習近平国家主席は台湾併呑の野望を隠していないうえ、その先には、日本の尖閣諸島を含む沖縄にも照準を当てている。
つまり、中ロ北朝鮮の「三兄弟」が協力して極権体制を世界に拡張し、米国一極主義的な国際秩序の枠組みに終止符を打ちたいというのが、習氏の狙いだろう。アメリカ全土を射程に入れた核弾頭搭載の新型戦略ミサイル「東風61」や、射程距離2万キロを誇る「東風-5C」、潜水艦から発射可能な「巨浪3」といった兵器が軍事パレードに次々と登場した狙いは、明らかに台湾海峡有事の際にアメリカ軍の介入を牽制することにあるだろう。
また、大量のステルス無人戦闘機や、ロボットオオカミ(機器狼、犬型戦闘ロボット)、ドローン群制御システム、敵ドローン無力化システムは、ロシア・ウクライナ戦争を意識し、台湾侵攻の際はドローン兵器が主役になることを印象付けている。水中ドローンにも核兵器を搭載し、核魚雷として利用できる「AJX002」や、大型無人潜水艇HSU100などが登場し、陸海空ともに核とドローンで戦える実力をアピールしていた。
アメリカへの対抗姿勢を誇示
トランプ大統領は、第1次政権中の2018年6月12日に世界初の米朝首脳会談を実現。翌2019年までに三度にわたり金正恩総書記との対面にこぎつけたため、表向きは「血で固めた友諠」と評されていた中国と北朝鮮の関係を大きく揺るがした。
一方、第2次政権ではプーチン大統領に接近し、中国とロシアの離反を仕掛けている。たとえば8月15日にはアラスカ州にプーチンを招き、ロシア・ウクライナ戦争の停戦に向けて協議を行い、ロシア側の主張を受け入れ、意向に沿った包括的な和平合意を目指す方針を示した。
しかし、そんなトランプ大統領の思惑をあざ笑うように、習氏はプーチン大統領と金正恩総書記を両側に従えて天安門楼上に立ち、「中国はアメリカと戦える」とばかりに兵器を誇示してみせたのだ。
こう考えると、ロシアと北朝鮮を中国から離反させて中国の孤立を図るというトランプ大統領の作戦は、失敗したように思われる。しかも、金正恩総書記が5月にロシア・モスクワの赤の広場で開かれた戦勝記念軍事パレードには姿を見せなかったにもかかわらず、今回の北京の軍事パレードに参加したことは、プーチン大統領率いるロシアが「三兄弟」の長兄の座からすでに降り、習近平国家主席率いる中国が「動乱の枢軸」国家のリーダーであることを世界に強く印象付けた。
つまり習氏は、中国が台湾の武力統一を実行した際はロシアと北朝鮮がそれに連動し、協力してアクションを起こす可能性があるというシグナルを国際社会に発したと言える。それはすなわち、第三次世界大戦は中国の台湾侵攻から始まる可能性があるということを示している。
疑問視される軍の実力
だが、こうしたシグナルは習の虚勢だという可能性もある。ここで注目すべき点が、三つある。第一に、軍事パレードで披露された新兵器には本当に説明通りの威力があり、解放軍の実力は本物なのか。第二に、習氏は本当に解放軍を掌握し、党内で盤石な指導力を有しているのか。第三に、中国、ロシア、北朝鮮の同盟関係はゆるぎないものなのか。

軍事パレードでは、アメリカをも直接、攻撃できると見られる大陸間弾道ミサイル(ICBM)やAIドローン兵器など、多くの武器が披露された(2025年9月6日撮影) © 中国新闻社 /wikimediacommons
まず、第一の解放軍の実力については、喫緊の3年間にわたり解放軍内で行われてきた幹部の大粛清の影響を考慮する必要があろう。今回の軍事パレードで世界がおののいた大陸間弾道ミサイルや核兵器、ハイテク兵器群の数々は、習近平が大粛清したロケット軍の幹部(戦略核兵器ミサイル)や、発展装備部の幹部(兵器調達、ロジスティック)、戦略支援部隊(情報、サイバー)や、軍工(航天)系の人材(宇宙兵器開発)らが直接、開発や運用に携わってきたものばかりだ。つまり、大粛清の対象となった人物の多くは、習氏自身が抜擢し、昇進させた人物だったのだ。アメリカの情報サービス会社ブルームバーグの分析によれば、2022年秋の三期目に入ってから習氏が取り立てた解放軍将校79人のうち14人が、汚職や腐敗、規律違反、不忠誠などの容疑で取り調べを受けたり、失脚したり、動静不明になったりしているという。胡錦涛政権や江沢民政権ではそうした事例はなかった。失脚した者には、習氏に最も忠実だと言われた中央軍事委員会の政治工作部で主任を務めた苗華氏や、解放軍の作戦指揮を執り実力ナンバーワンと言われた何衛東氏も含まれている。
習氏が彼らを抜擢したのは、解放軍のハイテク化を進め、米軍に勝つことができる軍隊にするためだった。だが、兵器の開発や調達に多額の予算を割り当てたことが汚職や腐敗を招き、信頼を裏切られた習氏が大粛清に踏み切ったと言われている。だとすれば、汚職まみれで開発されたハイテク兵器が、当初の計画通りの性能を有しているのか、そして、それを運用できる実力が部隊にあるかは、外から判別できないはずだ。実際、ロケット軍の幹部が粛清された際、ブルームバーグは、米情報当局筋の話として、ミサイルの発射用燃料庫に燃料ではなく水が入れられていたり、規格通りに製造されておらず使用できないミサイルが倉庫に大量に放置されたりしていると伝えていた。
粛清によりささやかれる軍の人材不足
一方、第二の習氏の掌握力については、一部のチャイナウォッチャーが、解放軍制服組トップである中央軍事委員会の張又侠・副主席が習氏と軍権をめぐって対立しており、習氏は軍を掌握できていないのではないかと主張している。今回の軍事パレード閲兵式で、張氏が前列右端におり、中央にいた習氏との間に距離があったことが、両者の対立説を裏付けていると見る者もいる。一方、張氏が政治局を引退した長老組の隣に配置されたことは、彼がすでに半ば引退した者として扱われていることを示しており、習氏を脅かす影の実力者として解放軍を掌握してはいない、という見方もある。
前述の通り、パレードに並んだ兵器群には、整備不良や運用能力不足などの問題があるかもしれず、解放軍は見た目ほど強くない可能性がある。また、これほどの大粛清があれば、表向きは習近平への忠誠を唱えている将校たちが「いつ自分も失脚させられるか」と疑心暗鬼になっていても、不思議ではない。今回、軍事パレードで閲兵の総指揮官がなかなか明らかにされず、発表されてみると従来に比べかなり格下の人物だったことから、習氏と解放軍の関係が良好ではないか、あるいは軍の人材が不足しているのではないかとの見方もある。つまり、粛清をし過ぎたため、一流軍人の中には、もはや習氏が信頼できる人物がいないのではないかというのだ。











