沈黙の女性たち 南アジアの栄養失調と性被害
政府と社会が両輪となってジェンダー問題の解決を
- 2024/4/5
ジェンダーをめぐる問題は、世界のいたるところで社会に深く根を張っている。特に途上国では、女性の健康や人権が侵害される深刻な事態が生じている。
バングラデシュで45%の女性が栄養失調 背景にあるものは
バングラデシュの英字紙デイリースターは、2月18日付で「女性の健康と福祉を優先せよ」という見出しの社説を掲載した。
社説によれば、国内の女性の栄養状態に関する調査で、実に女性の45.18%が栄養失調に苦しんでいるという結果が出たという。しかも、「多くの女性が太り過ぎであることも判明し、栄養失調と肥満が共存している深刻な状態にある」と、社説は危機感を示す。
「栄養不良の問題は理解しやすいが、肥満については、裕福な家庭で起きる問題だと誤解されやすい。だが、実際にはその逆で、肥満は低所得者層にこそ起きやすい」と社説は言う。その背景には、低所得者層が栄養価の高い食品を買えるだけの金銭的な余裕がないことや、十分な知識や情報に基づいて適切に食品を選べないこと、あるいは運動の時間がないことなどが挙げられる。また、「衛生的なトイレを利用できないことも健康リスクを高めている」と社説は指摘する。
そのうえで社説が強調するのは、栄養の問題にジェンダー格差が存在している、ということだ。バングラデシュの物価高や、栄養価の高い食品が高価であることはよく知られているが、女性が社会的に脆弱な存在であるという視点が抜け落ちている、と社説は主張する。
こうした状態を解決するために、社説は、「政策レベルと草の根レベル、双方が協力して取り組む必要がある」という。具体的には、栄養価の高い食品へのアクセス改善、健康教育の推進、衛生インフラの改善などの取り組みだ。もちろん、そこにはジェンダーへの配慮が不可欠である。「教育、経済、医療など、あらゆる側面からアプローチして現状を改善し、栄養改善を通して女性の力を高めることが重要だ」と、社説は強調した。
ネパール内戦中の性暴力被害者、未だ補償なく
ネパールの英字紙カトマンドゥポストも、2月21日付の社説で女性の人権について論じた。見出しは「敬遠され、沈黙させられる」。女性の性被害に関する内容だ。
ネパールでは、1996年から2006年にかけて、ネパール政府軍とネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の間で内戦が繰り広げられた。社説は、その間にレイプや性的暴力を受けた被害女性たちが、今も正義を求めて闘い続けていることを伝えている。
社説によれば、内戦中の人権侵害を調査する「真実和解委員会」に登録された6万3700件の申し立てのうち、314件がレイプや性的暴力に関するものだという。しかし、「これは被害者のほんの一部であり、ほとんどは社会的な影響や報復を恐れて申し立てをしていない」と社説はいう。国内にはこうした性犯罪被害者のグループが存在し、その活動会員は500人、ネットワーク全体では2500人に上るという。「彼女たちの多くはすでに結婚しており、夫は過去を知らない。愛する人に打ち明けたいと思いながらも、敬遠されることを恐れている」と社説は指摘する。
社説によると、国連人権委員会もこの問題を重視しており、犯罪に関与した男たちを捜査、起訴、処罰したうえで、被害者に補償を提供するよう求めている。しかし、ネパール政府に迅速な動きは見られない。「なぜネパール政府は、国民の半数以上をこれほど失望させるのか。なぜ、最も凶悪な犯罪から生存した女性たちが正義を求めることさえできないか」。
社説の嘆きは、政府に対してだけでなく、被害女性たちに声を上げることすら躊躇させるような社会の在り方に対しても向けられている。
(原文)
バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/womens-health-and-well-being-must-be-prioritised-3546781
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2024/02/20/shunned-and-silenced