バングラデシュの交通事故死を考える
地元英字紙が無謀運転の取り締まり強化と雇用主の責任を訴え

  • 2021/3/18

 無謀運転による死亡事故は、世界中のどの国でも起きる悲劇だ。しかも、多くの場合、事前に防ぐことができるものなのに、さまざまな要因から悲劇を生み続けている。2月28日付のバングラデシュの英字紙デイリースターは、この問題を採り上げた。

(c) yazan nash / Pexels

たび重なる死亡事故

 バングラデシュ北東部のシレットで、また死亡事故が発生した。社説によれば、ロンドンエクスプレス社のバスが、エナ・パリバハン社のバスに衝突し、8人が死亡、17人が負傷した。「こうした死亡事故や悲惨な負傷事故が後を絶たない。そしてその原因はほとんどが無謀運転なのだ」と、社説は嘆く。
 さらに社説は、今回の死亡事故について、次のような乗客の証言を紹介している。
 「ロンドンエクスプレスの運転手は、旅程の最初から、他の車に追い越しをかけるなど、危ない運転をしていたという。バスやトラックが、互いにレースのように抜き合う様子は高速道路でよく見かけるが、これは交通法を無視するだけでなく、人の生命をも無視するものだ」
 また、社説はこのバスの適合検査証が期限切れだったことも指摘している。
 「バングラデシュ道路運輸局の関係者によると、このバスの適合検査証は昨年2020年の11月24日で有効期限が切れていた」「なぜ有効な適合検査証を持たないバスが運行できたのか、と高速道路警察に尋ねたところ、警察だけでは取り締まりは不可能で、あらゆる政府関係者の協力が必要だ、という回答だった」
 多くの人の命を奪う事故は、一つの要因ではなく、いくつもの負の要因が重なって発生するものだということを痛感する。
 その上で、社説は問う。
 「これはいったい誰の責任なのか。無謀な運転手なのか、適切な法の適用をせずに車両適合検査証が期限切れのままバスの運行を許していた行政機関なのか、適合検査証のある車両と運転免許証を持った運転手だけが走行できるように安全を守るべき警察当局なのか」。
 その答えは、すべての人々だと言わざるを得ない。

1カ月に484人が死亡

 さらに社説は、今年1月だけで少なくとも427件の交通事故があり、484人が死亡し、673人が負傷したと伝えている。事故が最も多発しているのは高速道路で、35.83%に上る。また、事故の原因としては、適正に維持管理されていない車両や技術が未熟な運転手、交通ルール無視などが目立つという。
 「交通事故のニュース自体は、もはや目新しいものではない。しかし、2018年に道路交通法が成立し、その後も歩行者に対する交通安全の啓発活動や、運転時間の制限を求める通達が出されたにもかかわらず、一向に効果が出ていない」
 その上で、社説は、運転手が必ず有効な運転免許証を持つこと、運転手の給与や勤務時間をきっちりと定めること、最低走行速度を守れない車には高速道路の利用を禁じることなどが必要だと指摘する。いずれもきわめて当然のことであり、これまでいかにこうした点がおざなりにされているか、が伝わってくる。
 さらに社説は、「無謀な運転をする者を取り締まるだけでなく、その雇用主にも責任を持たせることが必要だ」と、指摘する。
 自然災害と違い、交通事故は一人ひとりの心がけや適切な法執行で十分に減らすことができる。先進国でも途上国でも、できること、やるべきことは同じはずだ。

 

(原文: https://www.thedailystar.net/editorial/news/why-cant-we-stop-deaths-reckless-driving-2052285)

関連記事

ランキング

  1. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  2.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その2024年の受賞作品が4…
  3. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  4. ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全…
  5.  2023年10月にパレスチナの軍事組織ハマスがイスラエルに大規模攻撃を仕掛けて以来、イスラエル軍に…

ピックアップ記事

  1.  中国とフィリピンの対立がにわかに先鋭化し、国際社会の関心を集めている。事態は、実質的に中国の第二海…
  2.  かつて恵比寿の東京写真美術館で、毎年開催されていた「世界報道写真展」。その拠点となるオランダ・アム…
  3.  台湾の頼清徳政権が正式にスタートして一カ月あまり。非党派・非営利団体・財団法人・シンク…
ページ上部へ戻る