フランス大統領選と欧州に対するアジアの視線
「消極的な選択」と抜け出せない膠着状態

  • 2022/5/11

 フランス大統領選の決選投票が4月24日に投開票され、中道派の現職であるマクロン氏が、急進右派「国民連合」の下院議員マリーヌ・ルペン候補を破って再選を果たした。ロシアによるウクライナ侵攻が始まって2カ月以上が経つ中、膠着状態を抜け出せない欧州、その中心にいるフランスに対してアジアが寄せる視線は厳しい。

フランス大統領選挙はエマニュエル マクロン氏(左)とマリーヌ ルペン氏(右)の決選投票となった(北京のフランス大使館で2022年4月24日撮影)(c) AFP/アフロ

若者の無関心を危惧するシンガポール

 投票の結果は、マクロン大統領が58.55%、ルペン氏が41.45%という接戦であった。2人は2017年の前回大統領選でも対決しており、その際はマクロン氏が66.1%、ルペン氏が33.9%だった。今回は、前回よりもルペン氏の「善戦」が目立ったという分析が一般的だ。この結果からは、「現政権に不満はあるが、極右政権になるよりもいい」という、「消極的な選択」であったことが伺える。
 シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、「マクロン大統領は勝利したわけではない」という論調を掲げた。4月28日付の社説は、「マクロン氏が極右候補のルペン氏に勝利したことは、欧州のみならず、世界中を安心させた」と書き出す。ルペン氏は、外交より国内政治を優先する姿勢を見せており、当初は「親ロシア」になるのではないか、という見方もあったためだ。そうなれば、欧州連合(EU)は分断され、事態はさらに混迷しただろう。EUの統合を重視するマクロン氏が勝利したことで、とりあえず安堵がもたらされた、と言える。
 その一方で、ストレーツタイムズ紙は、「国内問題がマクロン大統領の足元をすくう可能性がある」と、指摘する。1回目の投票で、マクロン氏の得票率は28%に過ぎなかったということは、それだけ批判票が多かったということを意味しているからだ。
 さらに社説は、「若者の無関心さが浮き彫りになった」と、指摘する。今回の大統領選の棄権率は約28%で、1回目の26%と、前回大統領選の決選投票の25%のどちらよりも多かった。ストレーツタイムズ紙は、特に若い有権者の棄権率が40%以上であることに注目し、「憲法により3選はされないことが定められているため、マクロン政権のカウントダウンはすでに始まっている」と指摘。「マクロン氏は国内においても外交面でも、厳しい状況を乗り切る覚悟が必要だ」としている。

マレーシアは追い上げ見せたルペン氏に危機感

  マレーシアの英字メディア・ニューストレーツタイムズは、ルペン氏が決選投票前の世論調査で追い上げを見せたことに「危機感」を示し、「ルペン候補の “フランスを取り戻す” という選挙スローガンは、極右主義者が掲げる “グレート・リプレイスメント” と重なる」との懸念を示した。「グレート・リプレイスメント」とは、アフリカや中東から来た非白人の人々―多くはイスラム教徒ーがフランス人に取って代わろうとしている、という考え方だ。その上で社説は次のように述べている。
 「ルペン候補がイスラム教徒のスカーフを完全に禁じることを公約に掲げていることも、なんら不思議ではない。もし彼女が勝利していたら、欧州の未来は人種差別的なナショナリズムとなっていただろう」

インドはロシアと欧米の駆け引きを警戒

 フランス大統領選に直接触れないものの、ロシアのウクライナ侵攻に対する欧州諸国の姿勢を批判したのは、インドの英字紙タイムズオブインディアだ。同紙は4月27日付の社説で、「ロシアの行動はもちろん批判されるべきであり、インドとしても異論はない」とした上で、「だからといって、今もロシアからエネルギーを輸入し続けている欧州諸国に指図されるいわれはない」という主張を展開した。
 インドにとってロシアは友好国であり、最大の武器輸入国でもある。国連のロシア非難決議でもインドは棄権するなど、ロシアに配慮した姿勢をとっている。同紙は「ウクライナへの侵攻については、どのような正当化もできない、国家の主権を侵害する行為だ」と述べ、「われわれは、インドがロシアとこれまでどんなに深い関係を保持してきたかに関わらず、ウクライナに対するロシアの軍事作戦を非難すべきだと主張してきた」と繰り返したうえで、次のように述べている。
 「ジャイシャンカル外相はこのほど、フランスをはじめ、欧州諸国がウクライナ情勢をめぐるインドの姿勢を非難したり問題視したりできる立場にはない、との見解を示した。この発言は極めて正しい」
 インドをめぐるロシアと欧米諸国の綱引きは、当面、続くだろう。

(原文)

シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-macrons-challenges-dont-end-with-win
マレーシア:https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/04/790125/nst-leader-le-pen-or-macron
インド:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/eu-too-do-this-india-should-critique-russia-but-on-other-aggressions-europe-hasnt-taken-moral-high-ground-either/

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