コロナ禍が深刻なインド、公的保険の拡充を
地元紙が家計に占める保健医療費の負担増大を指摘
- 2021/7/8
新型コロナの感染拡大が世界でも最も深刻な国の一つ、インドでは、保健医療費の増大が家計を苦しめているという。6月22日付のタイムズオブインディアは、社説でこの問題を採り上げた。
家計を圧迫する医療費
インドの新型コロナ感染者は6月末に累計で3000万人を超えた。死者数は約40万人。1日あたりの新規感染者数は6月末時点で約3万7000人と、ピークだった5月上旬に比べれば、いくぶん減少傾向にあるものの、感染力が強いとされる変異株による感染が確認された同国では、一時は病床や医療用酸素が不足し、野戦病院のような医療施設の状況が世界中に報道された。
「新型コロナの感染者が3000万人に達し、病院で治療を受ける人々が急増したことを受け、総合保険委員会は5月、150万件以上の保険支払い請求が提出されたと発表した。しかし、これは、今後も申請される請求のほんの一部に過ぎない。それに加え、保険に加入せず治療を受けざるを得なかった人々もたくさんいる」
社説によれば、2017年から18年にかけて実施された調査の結果、病院を受診したインド国民のうち8割以上が公的健康保険には加入していないことが明らかになったという。また、同調査によれば、公立病院に入院した人は42%に過ぎず、多くの人が民間病院での治療に頼っていることも分かった。これは、公的保険や公的医療機関が効率よく利用される仕組みになっていない、ということを意味している。
タイムズオブインディアは、6月21日付の紙面で、ある農家の女性を事例に医療費の問題を検証している。スニタ・パスワンさんは、夫が新型コロナに感染したが、公立病院が満床であったため、民間病院を受診せざるを得ず、治療費を支払うために25万ルピー(約36万6800円)の借金を背負ったという。彼女の直近の収入はわずか1万8000ルピー(約2万6400円)であり、負担の大きさは言うまでもない。
高い自己負担率
社説は、「貧困層だけでなく、保険に加入している中間所得者層にとっても治療費の負担が大きいことに変わりはない」と指摘する。新型コロナの感染拡大以前も、同国では自己負担と国民保険の割合が2対1と、自己負担の割合が高かったという。
「先進国だけでなく、新興国といわれるブラジルやキューバ、南アフリカ、トルコなどの国々でも、自己負担率はインドに比べればずっと低い。インドは公的な健康保険を改善し、カバー範囲を広くする必要がある。2018年の調査によれば、インドの国家国民医療制度(PM-JAY)には1億6000万人が加入しているが、新型コロナの感染拡大下において有効に活用されているかどうかは、はなはだ疑問だ」
その上で社説は、「インドは保健分野の歳出が少なすぎる」と主張し、ある調査結果を引用する。
「直近の経済調査によれば、医療費が家計を圧迫し、人々を貧困に追いやる原因となっている。同調査では、保健分野の予算をインドのGDPの3%に引き上げるべきだ、と指摘している。現在のインドの失業問題を考えれば、保健予算を増やせば、その分、雇用の創出も期待される。政府は、新型コロナによる入院代や治療費がどれだけ家計にとって負担になっているか検討し、対応する必要がある」
最後に社説は、「今回の新型コロナ危機を受けても保健予算を積み増ししないなら、政府は今後、いかなる事態でも考え方を変えることはないだろう」と、述べている。これは、保健分野に限らず、また、インドに限らず、多くの国で真剣に検討されるべき指摘だと言えよう。
(原文:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/health-of-the-nation-covid-has-shown-what-medical-expenses-can-do-to-poor-even-middle-class-govts-must-act-at-micro-macro-levels/)