「インド」が「バーラト」に国名を変更か
突然の呼称変更に飛び交う憶測
- 2023/10/30
2023年9月、にわかに「インド改名」をめぐる騒ぎが沸き起こった。ことの始まりは、9月初旬、G20議長国であるインドのムルム大統領が各国代表団に出した晩餐会の招待状だ。差出人の欄には、「インド大統領」ではなく、「バーラト大統領」と記されていた。その後のG20サミットでは、モディ首相も自国の呼称を「インディア」から「バーラト」へと変えた。
「バーラトからナマステ」
「万歳!国連でインドがバーラトになった」。9月27日付のインドの英字紙、タイムズオブインディアは、このような見出しで、国連総会におけるジャイシャンカール外相の演説を報じた。外相は演説の冒頭で、「バーラトからナマステ」とあいさつしたという。とはいえ、記事によれば、「インドという名前を捨てたわけではない。外相の演説では、『インド』に関する言及も十数回あった」として、外相がインドとバーラトを併用したことを伝えた。
総選挙をにらんだ政治的な改名か
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズも、9月11日付の社説でインドの改名騒動を読み解いている。
社説によれば、インドの憲法第1条には、「インド、それはバーラト」との記載があるという。「バーラト」とは、インドの公用語であるヒンディー語などでインドを意味する言葉だ。もっとも、インドはこれまで外交などの場では一貫して「インディア」という英語表記を使ってきた。
社説は、「モディ首相は今、『メイク・イン・インディア』というスローガンを掲げて新たな政策を推進している。また、2015年にはインドの最高裁で、国名をインドから『バーラト』に変更する必要はない、という宣誓供述書も提出している」と指摘。なぜ、このタイミングで「バーラト」を使い始めたのかと疑問を呈した。
そのうえで社説は、改名の理由としていくつかの「憶測」を挙げた。その一つが、来年5月に予定されている総選挙だ。「野党が新しい呼称として『INDIA』(Indian National Inclusive Development Alliance)を掲げたことを憂慮したのでは」という憶測だ。ほかにも、総選挙に向けて与党の影響力の大きさを国内外に示すパフォーマンス、という見方もあるようだ。
「誇りはどこに?」パキスタンの忠告
インドの隣国、パキスタンの英字紙ドーンは、9月8日付の社説でこの話題をとりあげた。
社説は、「G20の晩餐会の招待状がバーラト大統領の名前で発送されたことで、世界最多の人口を誇る国が、イギリス植民地時代に使われていた『インド』という呼称に代わり民族主義的な『バーラト』を採用しようとしているのではという憶測を招いた」と伝えた。
さらに社説は、「インド政府は公式には国名の変更について何ら決定しておらず、声明も発表していない」と指摘。そのうえで、シンガポール紙と同様に、「来年に迫った総選挙に向け、野党がINDIAという呼称を掲げたことで、モディ首相や与党が焦っているのではないか」と、推測している。
その一方で、社説は「インドという名前を残すことには多くの意味がある」と主張し、国名の変更に疑問を呈した。「英国の支配は、すでに1947年に終わっており、植民地時代の恥が国名に残っていると感じる理由は、ほぼないと言ってよい。インド国民の誇りの源泉は、経済力や国民の質の高さ、軍事力、そして世界における地位の高さにある。にも関わらず、なぜ改名などするのか」。そのうえで、「政治が良識に優先されることがあってはならない」と続け、釘を刺している。
(原文)
インド:
パキスタン;
https://www.dawn.com/news/1774635/india-that-is-bharat
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/rumblings-of-an-india-name-change