中国のいないG7 揺らぐ存在意義
アジア唯一のメンバー国である日本がとるべき姿勢とは
- 2023/5/4
日本が議長国を務める「G7」主要7カ国首脳会議が今月、広島で開催される。これに先立ち、財務相会合や外務相会合など、G7各国によるさまざまな会議が世界各地で開催され、G7のアジェンダが絞られてきている。
これからはG7よりG20の時代に
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、4月25日付の社説で、世界の重要事項を話し合う「主要7カ国」に、中国がいまだに含まれていないのは「奇妙なことだ」と疑問を呈し、次のように述べる。
「世界の先進国からなるG7に中国が含まれていないことは、世界経済における中国の重要性を考えると奇妙なことだ。米国、日本、ドイツ、フランス、イタリア、英国、カナダにより構成され、常任理事国として欧州連合が加わる、というこの顔ぶれを見ると、まるで中国を除外することがG7の存在意義であるようにさえ見える」
つまり社説は、米中対立が深まる中、主要各国が中国に対する姿勢で足並みをそろえ、いわば「中国包囲網」をつくるためにG7が開催されるかのようだ、と指摘しているのだ。一方で、社説は、G7外相会合では、フランスが米国の台湾対策に距離を置くなど、G7が必ずしも一枚岩ではないことにも言及している。
さらに社説は、現在のG7の姿勢そのものにも厳しい目を向ける。社説は、「かつてのG7は、旧ソ連に対抗する勢力として存在した」と指摘する。しかしロシアは、2014年のクリミア併合以降、この会議に参加しなくなった。その後、G7外相会合における話し合いの様子を見る限り、ロシアによるウクライナ侵攻や、ウクライナをめぐる中国とロシアの接近への懸念など、「地政学的な課題」がG7の最重要事項となっている、と社説は指摘。「気候変動、食料安全保障、災害の軽減といった人類の生存に関わる問題に関心を向ける人々にとっては、残念な状況だ」と述べた。
G7の存在意義を「中国包囲網」であると論じた社説は、さらに踏み込み、インドが議長国を務めるG20こそが、世界の課題を解決するための「有意義な議論の場である」と断言する。
社説は、「30年前には世界経済の70%を占めていたG7各国の経済力も、今では半分以下になっている」と指摘。その上で、世界がいま直面している気候変動や、人工知能の急速な進展など、「世界を根底から覆すような脅威」について協議をする必要があると主張する。そしてこうした協議にあたっては、中国やインドのような大国の存在なしに、意味のある議論はできないだろう、と断じた。
重要性を増すアジア太平洋地域
ストレーツタイムズ紙は4月11日付の社説でも、アジア太平洋地域の存在感が大きくなっていることに触れている。話題は、北太平洋条約機構(NATO)がアジア太平洋地域のパートナー国と、協力関係を強化し始めたことだ。
NATOは4月5日、ブリュッセルの本部で外相会合を開催した。この会合には、日本や韓国、オーストラリアなどアジア太平洋地域のパートナー国が参加。中国とロシアの結び付きが強まっていることへの警戒感から、連携を強化する方針を確認した。社説は、「NATOがアジア太平洋地域の国々との協力を強めるという決定は、国際政治に関心のある人ならば驚くに値しないニュースだ」と述べ、それが現実的な選択であったとの見方を示した。
また、NATOのこの方針について「日本にとっては外交的に勝利を収めたようなものだ」とも表現した。というのも、「日本はロシアのウクライナ侵攻を、アジア地域では中国と台湾の間で起こり得る状況として、常に重ねて見てきた」からであり、NATOのアジア地域に対する関与の強化を求めていたためだと社説は指摘している。
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経済力においても、人口規模においても、G7はかつてのような圧倒的な影響力を持ってはいない。2022年には、G7諸国の名目GDPは「グローバルサウス」を代表するインドや、中国などの新興国に逆転された。アジアで唯一のG7メンバー国である日本は、欧米諸国と足並みを揃えて中国包囲網を強化するよりも、長期的な視野で、中国やインドとの橋渡し役を担うべきなのではないだろうか。
(原文)
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/g-7-needs-to-rethink-its-priorities
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/nato-draws-closer-to-the-indo-pacific