「もったいないばあさん」インドから世界へ
ガンジス川2,500kmの旅から生まれた日本の絵本
- 2020/7/28
罪を洗い流す聖なる川の汚れ
ガンジス川に生息する魚や生き物について知りたいという真珠氏の希望で、道中、水族館にも立ち寄ったが、水槽に記されていたのは魚の名前だけ。上流から下流まで、どこにどんな生物が生息しているのか知る術はなかった。
カーンプルから200km下り、アラハバードに着いた。ガンジス川を含む3つの聖なる川が合流するサンガムを目指してインド全土から人々が集い、罪を洗い流して功徳を積むための沐浴をする。なかでも12年に1度、木星が牡牛座の位置に来てからの1カ月半は特別なご利益があるとされ、マハー・クンブ・メーラと呼ばれる世界最大級の宗教祭が開かれる。期間中は何十万もの仮設のテントが張られ、聖なる川に身を浸す人々の数は数千万に上るという。その川で沐浴するヒンドゥー教徒の姿を眺めながら、ふと「上流のカーンプルから大量の汚染水が流されていることを知っている人はどれぐらいいるだろう」と思った。
聖地バラナシを再訪してから東部のコルカタに向かうと、ちょうどインドの女神サラスヴァティのお祭りの真っ最中で、大量の飾り物やお供え物が次々に川へ流されていた。環境への影響を懸念し、自然に還元される素材を使おうという風潮もあるものの、改善にはほど遠いのが実情だ。上流で見た、あの透き通った水は見る影もないほど大量のゴミや下水で汚れ切っていた。
最終地点のガンガーサーガルは、川と海の水が混じり合うベンガル湾沖の島だ。コルカタから車で3時間、その後、船に1時間乗ってから車をさらに1時間ほど走らせて、ようやくガンジス川の河口に着いた。目の前には大海原が広がっていた。ガンジス川はここで終わるが、流れ着いたゴミは砂にまみれ、波に揺られて、ここからさらに遠いところに運ばれていくことになる。そこに住む生きものたちに影響を与えながら。
生命の輝きを伝える赤ちゃんたち
2週間の旅を終えた真珠氏は、こう振り返った。
「多くの人々は、ガンジス川の生きものや沿岸の自然に興味も知識もないように感じます。自分と川がどうつながっているのかを知ることで、自然の恵みに感謝したり、大切にしたりしようという気持ちになるのでは。その意味で、教育はとても大切です」
帰国後、日本の川も知ろうと東京の多摩川や、京都の鴨川を訪ねた真珠氏。鴨川の最初の一滴を見ようと上流の志明院を訪ねた時の印象をこう語る。
「新緑の中で、生命がきらきらと輝くのを目の当たりにし、生きものの赤ちゃんたちがこの世に生まれてきたことを喜んでいるように感じました。そして、赤ちゃんたちは生きることを喜ぶべき存在で、そうでないならもったいないとも思いました」
こうして、「川の赤ちゃん」をはじめ、さまざまな赤ちゃんが絵本に登場することになった。ガンジス川を歩いて1年後の2019年3月、旅が一冊の絵本に結実する。絵本の最後に、おばあさんは言う。
「かわは やまにも もりにも ひとの くらしにも うみにも つながっている かわを たいせつに しないなんて もったいない」
現在、この「もったいないばあさん かわをゆく」を含む「もったいないばあさん」シリーズの4作品がアニメ化され、YouTubeで世界配信されている。日本語、英語に加えて今後、フランス語、スペイン語、中国語、そしてヒンディー語で吹き替えられて公開される予定だ。
アニメ「もったいないばあさん」の旅は、これからも続く。日本発のMOTTAINAI の心を世界に伝えるために。
*Alliance to End Plastic Wasteの略。廃棄プラスチック問題を解決するために設立された非営利団体で、P&Gをはじめグローバル企業40社以上が資金を拠出している