国境逃れたミャンマー議員「2020年選挙は今も有効」帰らぬ側近への思い秘め活動 
シートゥーマウン氏インタビュー(上)

  • 2023/3/26

 「ひげを生やし変装して解放区に向かった。検問所には自分を手配する看板があったが、バレなかった」。ミャンマーの2020年選挙で当選した国民民主連盟所属(NLD)の国会議員シートゥーマウン氏は、ヤンゴンから脱出した際のことをこう語った。現在は国境地帯で、国軍を打倒し新政府を作るための活動をしている。2020年の総選挙から取材していた筆者はこのほど、シートゥーマウン氏に話を聞くことができた。2回のシリーズで、同氏の考えを伝えたい。

コロナ禍の最中に行われた2020年の総選挙で演説するシートゥーマウン氏(筆者撮影)

クーデター下で演説

 シートゥーマウン氏は、2020年の総選挙でヤンゴンのパペーダン選挙区から下院議員に初当選した。政治犯として収監された経験や、元学生活動家であることをアピールし、「国民の声を届ける」「議員は国民の奴隷」と訴えた。当時の与党NLDで初めてのイスラム教徒の国会議員だった。

 しかし、国会が開会となるはずの2021年2月1日に軍事クーデターが発生。シートゥーマウン氏ら国会議員は、首都ネピドーの宿舎に事実上軟禁された。「その日の朝、宿舎の入り口に武装した部隊が展開していた。市内を装甲車が走り回っていてクーデターであることがはっきりわかった」と振り返る。

 シートゥーマウン氏ら国会議員は、クーデターを認めないという声明を発表。国会議員らで作る連邦議会代表委員会(CRPH)を組織した。クーデター発生後の数日間の軟禁から解放されたシートゥーマウン氏らは2月上旬にヤンゴンに戻り、街頭に出てクーデターに反対して演説を始める。

 大観衆の前で「ここでクーデターが成功したなら、未来の世代は民主主義がない人権が蹂躙される時代になってしまう」と訴えた。公務員に対して「クーデター体制のもとで働くのは、犯罪者も同じ」と指弾し、ストライキに入るように訴えた。また、この時期に彼は、「死ぬ必要はない。流血を防ごう」と言って、平和的な抵抗を呼びかけている。そして、毎回、「下院議員のシートゥーマウンです」と演説を締めくくり、選挙の正当性を強調した。

2020年の総選挙で、キンマウンラさん(中)と歩くシートゥーマウン氏(右)。 キンマウンラさんは選挙キャンペーンの中心人物だった。

 そして彼は軍に追われ、ヤンゴンの隠れ家を転々とすることになる。2月末から、ヤンゴンでは実弾を使った弾圧が本格化する。シートゥーマウンさんが潜伏中の2021年3月には、国軍側が同氏の側近だったNLD党員のキンマウンラさん宅を急襲。キンマウンラさんを連行した。そして翌日に家族のもとに「死んだから遺体を取りに来い」と連絡があったのだ。

 「心臓麻痺というが、遺体の頭や背中には傷跡があった」とシートゥーマウン氏は話す。自分の居場所を聞き出すためにキンマウンラさんが拷問され、そして死亡したと考えている。

「闇の中に光」と革命目指す

 そして内戦の足音が迫る同年9月、国軍の弾圧が強まることを予想したシートゥーマウン氏はヤンゴンを脱出。長距離バスなどを乗り継いで、民主派支配地域(解放区)に落ち延びた。そこでは、若者たちが銃を取って戦う準備をしていた。祖国の将来について議論を交わし、若者を励ましたという。

筆者のインタビューに応じるシートゥーマウン氏(筆者撮影)

 現在、国境地域にいるシートゥーマウン氏は、CRPHの本部メンバー20人の一人として活動を続けている。CRPHは国民から選ばれた事実上の議会として機能していると説明する。民主派側の並行政府「国民統一政府(NUG)」を樹立したのも、CRPHだ。「2020年の選挙は今も有効だ。その権限によってNUGを立ち上げた」と解説している。

 CRPHで同氏は欧米諸国との外交交渉を担当している。彼は「クーデターから2年が経ち、闇の中に光が見える。独裁を倒すチャンスでもある」と話す。次回は、シートゥーマウン氏らがどのような国づくりを目指すのか、インタビューから見てみたい。

シートゥーマウン氏インタビュー(下)に続きます)

 

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