肌の漂白剤で蝕まれる健康と美(上)
正体の分からない薬剤に人々は何を託すのか
- 2019/8/20
これを受け、アフリカ各国で漂白剤の使用を禁止する動きが広まりつつある。アフリカのイノベーションに関する話題を伝えるニュースサイトのQUARTZ AFRICAによれば、ガーナやコートジボワール、南アフリカで漂白剤の使用が禁止された。また、アラビア語と英語で24時間ニュースを放送する衛星テレビ局のアルジャジーラと米国のニュースメディアであるCNNによると、ルワンダでも漂白剤が禁止されたことを報じれば、米国の国営放送であるVoice of Americaは、ケニアとタンザニアも禁止されたことを報じた。
その反面、利用者数は一向に減少しない。市街地に行ったり、Eコマースを利用したりすれば、簡単に入手できるからだ。アフリカ諸国では、規制の徹底や管理能力が常に課題であり、この問題でも法の網の目をすり抜けることは非常に容易いのが実態である。
薬局に潜入し、違法薬物を買う
漂白剤についてここまで下調べをした後、筆者はダウンタウンの大通りに行くことにした。前出のヴェラ・シディカも利用したというリバーロードの薬局では、禁止されているはずの漂白剤が簡単に入手できると聞いたからだ。知人のつてをたどり、その中でも特に品ぞろえが豊富な薬局へと向かった。大手テレビ局のKTN(Kenya Television Network)が取材を断られたことで知られる薬局で、ケニア人セレブたちも、ここで頻繁に漂白剤を購入しているという。
薬局の入り口に着くと、表には「レストハウス」という看板が掲げられていた。半信半疑のまま階段を上がると、門番のようなインド系の老婆が怪訝(けげん)そうに眺めてきた。怪しいアジア人だと警戒されているのが伝わってくる。「炎天下の中、歩いてきたのでのどが渇いた。水を買いたい」と伝えると、老婆は、「水は売っていないが、店員用の水があるからそれを飲めばいい」と言い、奥にいる若い女性に声をかけた。快く水を差しだしてくれた彼女は、老婆とは対照的に、アジア人の珍客を歓迎してくれているようだ。
筆者は、ケニア人のガールフレンドに首ったけの日本人のふりをすることにした。ガールフレンドに漂白剤をねだられている設定で尋ねようとすると、店員はこちらの説明をろくに聞こうともせず、漂白剤が山のように積まれた部屋に筆者を招き入れて、商品をあれこれ説明し始めた。
説明によると、漂白剤にはジェル、クリーム、オイルなど、タイプがいろいろあり、価格はほとんどが300シリング(約330円)から1,000シリング(約1,100円)程度だが、もっと高価な製品も取り扱っていると言う。パッケージを見ると、製造国の欄には、米国をはじめ、フランスやコートジボワール、ウガンダ、ケニアなどと記載されている。中国や韓国、日本の商品もあるらしい。部屋にはざっと見たところ数百種類以上の商品が並べられているようだが、店全体では1,000種類以上扱っているという。
売れ筋は、LIGHTUPという製品だという。700シリング(約770円)と、庶民でも手が出しやすい価格帯だ。勧められるがまま購入すると、店員は笑顔で出口まで送ってくれた。手元の商品が違法薬品であることを忘れてしまうほど、簡単に漂白剤が手に入ってしまった。