肌の漂白剤で蝕まれる健康と美(上)
正体の分からない薬剤に人々は何を託すのか

  • 2019/8/20

正体不明の『何か』

  オフィスに戻り、購入した漂白剤を調べ始めた。蓋を開けると、ココナッツのにおいと突き刺すような刺激臭が鼻にきた。指で一すくいして腕にぬる。

販売元の欄に書かれているUNIPARCO社は、セネガルに本社がある販売会社のようだ。パッケージに記載されているURLは既にリンクが切れているが、同社のFacebookページを見てみると、登録者数は70万人を超え、商品紹介の欄は、利用者からの賛辞や取引を望むビジネスマンからの問合せで埋め尽くされていた。さらに、会社のプロフィール欄には、ダカールに本社を置く家族経営の会社で、創業24年を迎え、アフリカ全土に支社を置くと記載されている。研究開発部門もあり、質の高い商品を提供しているとの触れ込みだ。

漂白剤を塗布した筆者の左腕と売れ筋商品として紹介されたLIGHTUP(筆者撮影)

 次に、米国国旗と並んで表記されているAmerican formulaという組織が製造元だろうかと考え、検索してみたが、それらしき会社や工場は米国に存在しないことが分かった。同名の企業はヒットしたが、同社は部屋の清掃品や工業用洗剤などを販売する会社であり、美容品は扱っていない。第一、ロゴも全く異なる。その後もしばらく調べを続けたが、結局のところ、UNIPARCOの実態といい製造元といい、詳細がまったく分からなかった。

 一言で言えば、ケニアの薬局で購入し、よく考えもせずに塗布したこの漂白剤は、「よく分からないもの」以外の何物でもなかった。ケニア標準局(KEBS)のマークもなく、ろくに検査されていないと推察される、その「よく分からないもの」がダウンタウンの薬局で売れ筋の商品として陳列されていることに強い違和感を覚えた。念のため、クリームを丸一日、放置し経過を確認したが、幸いなことに、炎症や痒みといった症状は現れなかった。

 腕に何の症状も出なかったことに安堵(あんど)すると同時に、新たな疑問が生じた。この製品には、果たして本当に薬効があるのか。そもそも、即効性のある漂白剤は存在しないが、それを逆手にとって、本来、何の効果もない製品を詐称して販売している可能性もある。製造元や販売元の実態が分からず、まともな検査が行われていないというのも、危険だ。そのような商品が簡単に手に入る状況は問題だが、それ以上に、そのような正体の分からない薬剤を使用するリスクを冒してまで、ケニア人女性たちは、なぜ肌の漂白という危険な行為を行うのか、謎が深まる。

 次回(後編)は、肌の漂白剤についてナイロビ市民に直接聞き取りを行い、そこから明らかになった美意識や、健康問題を超えた社会の課題について迫る。

 

 

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