ケニアの農村で高まるワクチンへの期待と不安
社会に生まれた分断のゆくえ
- 2021/3/28
恐怖心から広がる噂
日雇いで働いているルーシー・ムワウラさんは、ケニアで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された日のことをよく覚えている。
「パニックになってしまい、ニュースを見たかと友人にかたっぱしから電話しました。みんな12月までに死んでしまうんじゃないかと、とても恐ろしかったです。でも、状況は思っていたほど悪くないですね」
3月に学校が閉鎖された後、ルーシーさんは二人の息子に家にいるように命じ、外遊びを禁止した。外部との接触を断ち、感染リスクを抑えたかったのだ。隣村に居る祖母に会いに行く時も、ルーシーさんが同行する時だけ許した。
「この村にはまだ感染者がいないけれど、収穫の手伝いのためにナイロビから戻ってきた隣村の若者が、1週間後に呼吸困難で亡くなったという噂はあります。コロナで亡くなったから、お葬式も普通じゃなかったそうですよ。単なるうわさ話ですけれど」
ルーシーさんは学校が再開した今、子どもたちが感染しないか心配しており、「できればワクチン接種が終わるまで閉鎖を続けてほしかった」と話している。
暗雲立ち込めるワクチン計画
ケニア政府は、現在、ワクチンが公平に分配されるための多国間スキーム(COVAX)を通じて約100万回分(50万人分)のワクチンを入手しており、3月5日から無料接種が始まった。医療従事者から優先的に接種が行われているが、同日配信されたニュースによると、ワクチンの入手にあてる45億シリング(約45億円)が予算計上されていなかったことが発覚し、早くも暗雲が立ち込めているという。また、ケニア政府が入手する予定のアストラゼネカ社製ワクチンが、欧州を中心に健康被害が報告されたことを受けてカメルーンやコンゴ民主共和国で接種が延期されており、今後、接種を慎重に進めざるを得ない可能性がある。
さらに、ワクチンの配給方法にも問題がある。数量が限られているうえ、政府が適切に輸送してくれるか、疑問視するケニア人は多い。政府の汚職体質や不正に対する人々の不信感を根強く、有力な政治家が自身の出身地に優先的に配分するのではないかと疑う者もいる。輸送網も、近年、整備が進みつつあるとはいえ、田舎の村までのアクセスが整っているわけではないため、ワクチンへの期待が膨らむのに反比例して葛藤も大きくなるだろう。
現在、ケニアでは第三波となる感染拡大が起きており、政府は3月26日、大型都市を対象に往来を禁止した。しかし、それで田舎に住む人々は安心かといえば、決してそうではない。田舎という、人が少ない地域だからこそ、その土地特有の不安に苦しんでいる人々がいる。家族がまだ幼かったり、出稼ぎのために街にいなければならなかったりする人の苦しみは特に深刻だ。
効果的なワクチンが十分に行き渡ることで、感染リスクを低減するのみならず、分断された社会が再び繋がれ、交流が許されるようになることを願う。