ケニアのゴミ山で生きる「政府公認」のウェストピッカーたち
不衛生なカンゴキ最終処分場で見た皮肉な現実とは

  • 2023/10/19

健康リスクをおして分別作業に従事する人々

  言うまでもないことだが、このような環境でゴミを拾い続けるのは、肉体的にも精神的にも過酷で、健康を害する可能性が高い。自ら望んで就きたい人も決して多くないだろう。しかし、求職者に比して正規雇用が圧倒的に不足しているケニアでは、特別な技能がなくても貴重な現金収入を得られる数少ない職業であることは確かだ。ケニア国家統計局によれば、同国の労働人口は正規雇用者が約318万人なのに対し、非正規で働いている者は1596万人(推計)と、非常にアンバランスな構成となっており、たとえ国内最高峰のナイロビ大学を卒業しても職にありつけず、スラムでその日暮らしを強いられる人々も珍しくない。ゴミ拾いの仕事は、深刻な就職難で苦しむ人々にとって現金収入を得る貴重な機会であると同時に、社会の受け皿でもあるのだ。特に、カンゴキのように、秩序と管理がある程度、担保されているようなゴミ処分場の場合、失業者だけでなく、年配の女性やシングルマザーなど、経済的に困窮しやすい人たちに広く収入の機会を提供している点は注目される。県としても、野積みのゴミを分別し、再利用してくれるゴミ拾いたちの存在は重要だと考えており、ある意味ではWin-Winの関係を築いていると言えなくもない。

 もちろん、だからといって、ゴミ処分場で働くウェストピッカーたちが、プラスチックを燃やした有害ガスを日々吸い込みながら不衛生な環境下で感染症のリスクにもさらされている事実は、無視されるべきではない。彼らに健康被害が出る前に、少なくともゴム長靴やゴム手袋といった、衛生対策に必要な備品が行き渡ってほしいと願う。

 将来的にケニアの経済が成熟し、十分な雇用が創出され、ゴミ処理の仕組みが発展すれば、いずれウェストピッカーという存在はいなくなるだろう。しかし、ケニア社会の現状を見ている限り、それははるか遠い未来のように思えてならない。事実、カンゴキ最終処分場では、近年、ウェストピッカーの人数が増える傾向にあるという。本来、いなくなることが望ましいウェストピッカーという職業を自ら選ぶ人々が後を絶たないという皮肉な現実が、ここにはある。

 

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