在日大使館を離れたミャンマー外交官の600日 
支えてくれる仲間たちとともに人権弾圧が続く祖国を思う

  • 2023/1/24

 2021年2月1日にミャンマーで軍事クーデターが起きてから2年が経とうとしている。当時、一等書記官として在日ミャンマー大使館(東京・品川区)に勤務していたアウンソーモー氏は、1カ月後の3月、軍に対する抗議の意思表明として職務を放棄するCDM(市民的不服従運動)への参加を表明し、大使館を離れたが、その後、日本政府からビザを発給され、在日ミャンマー人らの支援を受けながら、現在も都内に滞在している。同氏は2022年12月末、単独インタビューに応じ、この600日間を振り返りながら、支え続けてくれる仲間たちへの感謝と、民主主義を取り戻す強い決意を語った。
(関連記事:CDM参加のミャンマー外交官が守った正義

2021年3月6日に在日ミャンマー大使館を離れた元一等書記官のアウンソーモー氏(筆者撮影)

<アウンソーモー氏 略歴> 1969年生まれ。28年にわたりミャンマーの外務省で勤務し、 アウンサンスーチー氏が率いていたNLD(国民民主連盟)政権によって2018年に一等書記官として在日ミャンマー大使館に着任した同氏は、2021年2月1日に祖国でクーデターが起きたことを受けて、同年3月6日、軍への抗議の意志を示して職務を放棄するCDM(市民的不服従運動)に参加することをSNSで表明し、大使館を離れた。

CDMに参加して一変した生活
 2022年12月下旬、指定された東京都大田区内にあるアパートの10階を訪ねると、普段着の男性がドアを開けてくれ、落ち着いた様子で笑顔を浮かべながら、「どうぞ入ってください」と、招き入れてくれた。台所には、ミャンマー人がよく使う色鮮やかな調味料や食器がところせましと並んでいる。その男性こそ、在日ミャンマー大使館の元一等書記官で、外交官として28年間のキャリアを有するアウンソーモー氏(53)だ。

慣れた手つきで台所に立つアウンソーモー氏(筆者撮影)

 大使館を離れた日から、同氏の暮らしは一変した。寒さがまだ残る中、友達と待ち合わせた駅にまっすぐに向かったが、住んでいた大使館員用の宿舎からはコートとパソコン以外は持ち出せなかった。突然のことで家も借りることができなかったため、豊島区大塚にあるビジネスホテルで約1カ月間、生活したという。
 「ホテル暮らしは狭くて不便で、それまでの大使館用宿舎での生活とは比べものにならないほど違った」と、アウンソーモー氏は振り返る。

大使館を出てからの生活は苦労も多かった(筆者撮影)

 大使館を出てからの生活は、苦労も多かった。以前は当たり前だった特権的な待遇は、当然ながらすべて失った。

手作りのミャンマー料理を振舞うアウンソーモー氏(筆者撮影)

 しかし、それよりもつらかったのは、以前は働きづめだったため、CDMに参加してしばらくの間、することを見つけることができず手持無沙汰の状態が続いたことだったという。同氏は、「自分は正義を守り、何でも向き合うのだと覚悟を決めたことで、困難を乗り越えられた」と、アウンソーモー氏は誇らし気に語った。

アウンソーモー氏はピアノもたしなむ(筆者撮影)

民主主義を取り戻す闘い
 そんな同氏にとって、600日間にわたり支えになっていたのは「自分も民主主義を取り戻すための闘いに参加しているのだ」という思いだった。

「自分も民主主義を取り戻すための闘いに参加しているのだ」 という思いが支えになった(筆者撮影)

 しかし、当時、同氏の家族はヤンゴンに住んでいた。「今でこそ安全なところにいるが、当時は家族の安否が心配で、経験したことがないほど気を揉んだ」と、同氏は抱え込んできた思いをあらわにした。

自宅で取材に答えているアウンソーモー氏(筆者撮影)

 さらに、「家族のことが恋しくて、会いたくてたまらない時もあった。悲しくなったり、寂しくなったりするたびに、東京に住んでいる仲間たちから愛をもらって自分のモチベーションを上げようとしてきた」と、同氏は寂しさを紛らわしながら頑張り続けた日々を振り返った。

経験を生かしてNUGとも連携

 クーデター後、軍に対する抵抗の一貫として、民主派勢力側にもさまざまな動きが見られた。まず2021年4月、軍によって反故にされた2020年総選挙の当選議員らが中心となって、連邦議会代表委員会(CRPH)が創設された。その後、2021年4月には国民統一政府(NUG)も立ち上げられた。NUGは、ほとんどの市民が支援しており、フランスや日本など7カ国に支部を開き、各国に住むミャンマー人を支援している。

NUG日本支部のイベントで講演するアウンソーモー氏(筆者撮影)

 筆者は、ちょうど1年前にもアウンソーモー氏にインタビューをした。前回は、NUGとの連携について「状況と条件次第だ」と答えていたが、同氏は現在、外交官の経験を生かし、NUG日本支部(本部:池袋、ソーバラティン 代表)で領事業務や外交、事務などを手伝っているという。

NUG日本支部では、経験を生かして領事業務や事務などを手伝っており、自宅でも作業している(筆者撮影)

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