ロシアとミャンマーの共通点
孤立したリーダーの恐ろしい決断

  • 2022/3/23

 ロシアによるウクライナ侵攻から早くも1カ月が経過しようとしている。これを受けて、ミャンマー政治などを専門とする南オーストラリア大学のアダム・シンプソン上級講師は、オーストラリアのウェブメディア「ザ・ストラテジスト」*で、ウクライナ侵攻と、昨年、ミャンマーで起きたクーデターには類似点があると論じた。

オーストラリア・ストラテジック・ポリシー・インスティテュート発行

ミャンマー国軍のアウン・ミン・フライン総司令官とロシアの国防大臣セルゲイ・ショイグ(2019年) (c) Ministry of Defence of the Russian Federation / Wikimedia Commons

イエスマンに囲まれた独裁者の過ち

 ロシアによるウクライナ侵攻と、約1年前に起きたミャンマーでのクーデターは、ある点で極めて類似している。

 前者が核兵器を持った大国による他国への侵攻であるのに対し、後者は軍政が長かった開発途上国における国内の権力闘争であり、その性質はまったく異なるにも関わらず、だ。

 共通しているのは、どちらも権威主義的で孤立した指導者が引き起こした非常に大きな戦略的失敗だ。ロシアのプーチン大統領は1991年以来、ミャンマーのミンアウンフライン総司令官は2011年以来、イエスマンに囲まれて社会から隔絶されていた。その間に彼らを取り囲む世界は大きく変化していたのだが、両者とも閉鎖的な思考を続けていたため、社会の大きな変化に気づかなかった。そして、軍事行動がどういう結果をもたらしうるかについて、妄想を膨らませていった。

 二人は、戦いにやすやすと勝利し、さらなる権力を手に入れられるだろうと予測した。しかし、自分たちの計画に対する抵抗は予想以上に激しく、強固で広範なものだった。

2022年3月のプーチン大統領 (c) Haloísio Jota / Wikimedia Commons

10年の間に自由を知ったミャンマー市民

 ミャンマーでは、半世紀にわたり軍政が続いた後、2011年から10年間、政治・経済改革が行われた。また、長年にわたって行われていた抑圧的な検閲制度も廃止され、独立メディアが隆盛を極めた。労働組合が合法化され、最低賃金も制定されるなど、国のほとんどの地域で生活水準が改善した。

 2014年9月には、民間の通信会社2社がミャンマー市場に参入し、SIMカードの価格は、一夜にして、約1,000米ドル(約10万5560円)から1.5米ドル(約158円)に下がった。人口の約2%程度だったインターネットの普及率も、一瞬にして60%以上まで上昇し、Facebook(現在のメタ)は同国のメディアとコミュニケーションの主要なプラットフォームとなった。

 他方、ソーシャルメディアへのアクセスが爆発的に増加したことで、残念ながら少数派イスラム教徒ロヒンギャに関するフェイクニュースやヘイトスピーチの拡散につながったという側面もある。

 2017年には、ミンアウンフライン総司令官率いるミャンマー軍によって集団的な迫害が行われ、約74万人もの人々が隣国バングラデシュに逃れた。

 ミャンマー軍は、これまで数十年にわたりさまざまな少数民族の武装勢力と内戦を続けてきた。さらに、2020年11月の総選挙で国民の圧倒的多数の支持を得て再選されたアウンサンスーチー国家顧問兼外相が率いるNLD(国民民主連盟)の政権を、選挙違反だという誤った主張をして2021年2月に解体したのだ。

 ミャンマー軍の軍人は、孤立した偏執的な世界で生活し、一般人と交わることはほとんどない。プロパガンダ情報を与えられ、それに対抗するための外部情報もほとんど得ていないことが多い。

 そして、ミンアウンフライン総司令官をはじめとする指導層は、軍が所有するビジネスで莫大な富を蓄積し、華やかな暮らしを送っている。そんな彼らが国民から孤立して住むのは、国内の他地域から隔絶された首都ネピドーという、奇妙な都市の端だ。

 2011年まで軍事政権が統治していたミャンマーで、従順な部下に囲まれてきたミンアウンフライン総司令官は、「長きにわたって軍事政権を経験してきた国民は、以前の状態に戻ることを平然と受け入れるだろう」と考えていたに違いない。

 しかし、彼にとっては不幸なことに、ミャンマーの国民は、軍による支配をやすやすと再び受け入れようとはしなかった。世界の多くの国々が享受している自由とはどんなものか、彼らはすでに味わっていたためだ。

 特に、若者たちはこの10年間、自分たちの親がかつて夢見た自由を存分に経験してきた。こうした自由や、将来の教育機会に対する夢を奪われることへの無念さは、軍政への激しい怒りとなった。この激しい憤りは、簡単に消えはしない。

 さらに、その中から、軍政に軍事的に対抗しようとする集団が形成されていることから、事態はより複雑になっている。こうして結成された「国民防衛隊」のメンバーの多くは、少数民族の武装勢力から訓練を受けており、軍に対して暗殺を企てたり、奇襲を仕掛けたりし続けている。このような理由から、軍は国土の大部分をいまだ完全に支配下に置くことができていない。

ウクライナの変化を見誤ったプーチン大統領

 同様に、ロシアのプーチン大統領も、社会の変化から隔絶されてきた。彼がとてつもない大金持ちだというのは見てとれるが、どのような資産を持ち、どのように管理しているのかまでは分からない。

 しかし、この巨額の富とパラノイア的な性格が災いし、彼は、ロシアやウクライナ社会で起きている近年の変化にほとんど気づいていなかった。彼のパラノイア的な傾向は、会議を行う際に非常に大きな机の端に座っていることを見ても、悪化しているように思われる。

 プーチン大統領と、側近の安全保障顧問は、ソビエト時代の政治と社会の思考様式を持っており、「伝統的な」社会的・政治的価値観への回帰を切望している。彼らがウクライナを取り戻そうと画策している様子は、ソ連とロシアの帝国時代を彷彿とさせる。2014年のクリミア併合についてはその狙いが明らかだったが、今回の侵攻も、ウクライナを属国以上に戻すことが目的だ。

 しかし、そうした側近の中でも、最も身近な人々をも罰する必要性をプーチン大統領は感じている。先日、国連で開かれた安全保障理事会の前後に放送された国営テレビの内容は、側近らに対してことさらに高圧的な態度を示すことで、自分の地位が上であることを示そうとするためのものだった。

 プーチン大統領にとっては不運なことに、彼には反対意見を述べるアドバイザーがおらず、孤立している。そのために、彼は大きな戦略的ミスを犯すことになった。

 ウクライナは、1991年以降、大きく変わった。この20年を見ても、2005年と2014年の2度にわたり、ロシアの支援を受け不正に選挙に出馬しようとした指導者が、民衆によって排除された。

 2019年に大統領に選出されたヴォロディミル・ゼレンスキー氏は、それまでの腐敗し、専制的だった大統領とは一線を画す存在だった。彼は今、戦時中の指導者としての手腕を発揮してウクライナの人々に勇気を与え、団結させている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領 (c) Government of Ukraine / Wikimedia Commons

 戦争で悲劇が起きていることを差し引けば、少なくともウクライナ北部での戦闘は、ロシアにとって計画通りに進んでいるとは言い難い。

 プーチン大統領とロシアは、抵抗勢力を削ぎ、民間人に多大な犠牲を出すことによって、軍事的には部分的に勝利を収めることができるかもしれない。しかし、政治的にも、経済的にも、破滅的な敗北を喫することになるだろう。

 ミンアウンフライン総司令官にも、プーチン大統領にも、もはや良い選択肢は残されていない。二人とも、自分が尊敬も理解もしない相手と衝突することになったのだ。両者とも、その誤算による代償を払っているが、代償の大部分は、それぞれの国民が負うことになる。

 このことから世界の政治指導者は次のような教訓を学ぶことができる。すなわち、反対意見を抑圧することは、短期的な利益を得ることはできるかもかもしれない。しかし、それゆえに、長期的には破滅的な過ちを犯しかねないのである。

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This post was originally published in English at The Strategistonline media of Australian Strategic Policy Institute (APSI) by Adam Simpson. Dot World is responsible for the translation into Japanese, and this redistribution is for non-profit purpose.

 

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