【ミャンマー総選挙2020】沈黙のまま選挙終盤へ
コロナ、治安悪化、情報統制の3重苦で議論深まらず

  • 2020/10/30

 11月8日投票のミャンマーの総選挙が、混乱状態のまま終盤を迎えている。各党や候補が接戦を繰り広げ結果が読めないという意味ではない。選挙のあり方そのものが混乱しているのだ。新型コロナウイルスの第二波による外出禁止令で、集会や演説は出来なくなり、内戦による治安悪化で投票が行われない地域も拡大。こうした混乱の中で盛り上がりを欠いたまま、選挙戦は終盤に突入した。政策論議が十分に行われない中で、有権者は投票を迫られることになる。

与党NLDを応援するようデコレーションした3輪自転車タクシーの運転手(ヤンゴンで筆者撮影)

コロナで選挙運動できず

 今回の選挙の最も大きな障害はもちろん、新型コロナの感染拡大だ。9月8日に幕を開けた選挙戦は、新型コロナウイルスの感染者が急増している中で始まった。8月下旬から増え始めた感染者は、9月に入ると1日100人以上の感染者が見つかることが多くなり、10月に入るとその数は1日1000~2000人となった。9月21日には、ヤンゴン管区のほとんどの地域で外出禁止令が厳格化され、公務員や病院関係など一部の職業以外の住民は、買い物などを除いて外出できなくなってしまった。

 このため、道路での演説や集会などの選挙運動を予定していた各陣営は、9月中旬以降、ほとんどの運動ができない状態だ。そのため、隅々の小さな通りでまで選挙演説が行われた2015年の総選挙に比べるまでもなく、明らかに盛り上がりに欠けている。町では静かにたたずむ候補者の看板を除いて、選挙が行われていることがほとんど感じることができない状態だ。

オンラインで支持を訴える新社会民主党の候補者(筆者撮影)

 集会や演説ができずに困った各陣営は、外出せずともできるインターネットを活用した選挙戦にシフト。ミャンマーで広く使われている交流サイト「フェイスブック」でビデオを流したり、支援者とのディスカッションをしたりするイベントを即興で開催している。こうしたネット空間では、やはりアウンサンスーチー国家顧問兼外相の絶大な人気が大きな影響力を持っている。選挙戦直前に与党・国民民主連盟(NLD)が立ち上げた「NLD議長」というアカウントは、連日同顧問の演説などを配信。すでに110万人以上のフォロワーを獲得している一大メディアとなっている。そのほか、NLDから分派した国民先駆者党(PPP)が、クオリティの高い動画を配信するなどして、露出を増やしている。しかし、党首クラスが目立って演説などを配信しているものの、各選挙区の候補者が配信するコンテンツの注目度は高くないといえる。

選挙戦開始直後の運動が可能だった9月9日、道路で演説する与党NLDの候補者(ヤンゴンで筆者撮影)

 第二の障害は、内戦による治安悪化だ。10月14日には、西部ラカイン州で、現職の議員で今回の選挙に立候補していたNLDの3人が、ラカイン族系の武装勢力「アラカン軍」に誘拐された。こうした治安の悪化を受け、選挙管理委員会はラカイン州、シャン州、カチン州などの一部で投票を取りやめることを発表。国会の上下両院で22議席程度が選出できないとみられる。

 このため、ラカイン州に強い地盤を持つアラカン民族党(ANP)などが不利になり、不公平だという批判が出ている。また、今回投票が中止となった地区は、アラカン軍の活動が活発化しているエリアと重なるが、こうした場所ではアラカン軍は積極的に新兵を募集しているといわれている。選挙中止で投票権を奪われた若者が、自分たちの主張を通すには武力闘争しかないと考え、武装勢力に身を投じる呼び水となりかねない。

 ラカイン州を巡ってはこのほか、イスラム系住民のロヒンギャの候補者が、「出生時に両親がミャンマー国民である」という議会選挙法の規定を満たさなかったとして選管が立候補を認めない例もあった。ロヒンギャらで作る民主人権党(DHRP)は5人の立候補が認められず、「非合法であり、差別だ」と反発している。

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